2011/12/08

最強の営業戦略 栗谷仁氏著


B2Bマーケティングをステップごとに整理されているので、一通りのことを理解したうえでまとめたいときに読むのがいい本。 先の2冊と重複する部分があるのは、それがセオリーだからだろう。 栗谷氏はやはりコンサルティング会社出身。 

  1. (総論) 営業の競争力強化のチェックポイントは何か
    • 売上の低い顧客への値引きを多くしていないか?
    • 黒字を出している顧客の利益で赤字の顧客を補填していないか?
    • 利益率が高く、ポテンシャルの高い顧客やセグメントを最優先にしているか?
    • 顧客視点でのニーズを重視しすぎて、競合他社に比べて自社が弱い顧客ニーズを訴求していないか。 顧客のニーズプライオリティと、自社から見た顧客ニーズを満たすための相対的な競争力は必ずしも比例しない。(自社の競争優位が保てる顧客ニーズを訴求しないといけない
    • 営業活動の流れをプロセスにまとめて可視化できているか。
    • 顧客訪問回数をリターンが取れる順位付けにしているか。
    • 営業体制は十分か。(組織編制、スタッフ、ノウハウ、会社のサポート、軍資金などなど)
    • 目標設定、活動モニタリング、レビュー、アクションのPDCAは回っているか。
  2. ターゲット選定
    • よりビジネスを広げるためには既存商品と既存顧客の深堀が第一義だが、新規顧客、新規商品への進出を考えることも多い。 その場合の整理の仕方として、マトリックスの一辺を顧客(既存と新規)、一辺を商品(既存と新規)すると判り易い。 もちろん双方が新規だとハードルが高いのは当たり前。
    • 縦にシェア、横に顧客売上をプロットしてシェアチャートを作るが、縦に競合先もアドレスしていない潜在市場を、横を顧客ではなく商品をプロットすると潜在市場を含めた市場規模チャートが出来る。 
    • 流入・流出分析: 前年と今年の売上を比較して、新規顧客と流出顧客(今年は受注が無かった顧客)の売上規模を算出する。 その顧客がそれぞれどの競合先から流れ、流入したのか、その理由は何かを分析してみる。
    • 顧客別の収益性への理解:
      売上=利益+コスト、 コスト=変動費+固定費。 販売価格がコストを下回った場合、そのコストが固定費を割り込み(利益が無くなる)、変動費をも割り込んでいる(限界利益が無くなる)場合は、売れば売るほど赤字になっている状態。 すぐに売るのをやめるか、売値を上げるか、変動費を下げるなどの対策が必要。
  3. 営業効率を上げる努力
    • 営業のドアオープニングからビジネスのクローズまでのプロセスを作る。
    • その間の作業を定義し、最適化する。
    • ここで狙う顧客のセグメント、プライオリティ付け、顧客ごとへのアプローチを定義する。
    • 実際の営業活動のログを取り、比較する。
    • 効率の悪い部分を特定して改善する。
  4. 一般論として、営業訪問およびその準備、企画的業務に持ち時間の多くを費やす必要がある。 
赤字は重要ポイントというよりは、自分でやったことが無かったので機会があればやってみようという箇所。






2011/11/29

法人営業「力」を鍛える 今村英明氏著


 この法人営業力を鍛えるという本の帯に「BCG流ビジネスマーケティング」と書いてある。言わずと知れた、ボストンコンサルティングのことである。以前書評を書いた三枝匡氏はBCG Japanの草分けの方。先日読後感を書いた山口英彦氏もBCGに席を置かれていた。そのせいか底流を流れるメッセージやプロセスが似通っている。印象に残ったことをまとめて、私の言葉に置き換えながら整理してみる。

  1. なぜマーケティング視点が必要か
    • 効率の良い営業活動をするためには、自分の必勝パターンを持つ必要がある。 
    • それは、「どの製品を、どの顧客に、どう売り、どう競合を長期的に凌駕し、どう利益をあげるかの、首尾一貫した見方・考え方・行動の仕方」と定義される。
    • 様々な企業のデータを元に少々ショッキングな現実を紹介すると、
      • 営業経験年数と売り上げ成績に相関関係はない。 
      • 取引額の大きさと利益率には相関関係はない。
      • 顧客のビジネスポテンシャルと、その顧客への訪問頻度に相関関係はない。
      • 売上が大きければ値引率も大きい、という常識から外れたケースが多く存在する。
    • 認識すべきポイントは、常識的に考えて有るべき姿に、現実はなっていないこと。 かつ会社のマネジメント側もその現実を把握していないケースが多いこと。
    • 一方で、現実を矯正することで効率を大きく上げることが出来る、「宝の山」でもある。
  2. 市場を科学する
    • 3C (顧客、競合、自社)を有るがままに把握する。
    • 個々の分析、それぞれの関係を検討して筋が通った説明が出来るように整理する。
    • その整理が正しいかどうかを数値を当てはめて確認する。
    • 価値のあるビジネスかどうかを検討する手法
      • チャンスマップ : 顧客A,B,C..の総購入額を横軸、自社と競合先D,E,F..を縦軸にプロットして、まだどれだけ自社が取れていないシェア(ポテンシャル)があるかを見る。 <これはシェア・マップと呼んでいた・・松野尾>
        縦軸・横軸の項目を変えることで応用可能。 例えば業種X既存設備の購入時期。 それ以外の項目候補は、用途、機能、技術、素材、商品群・・・。
      • バリューチェーン: ひとつの業界の上流から下流までをマッピングしてどのブロックに魅力があるかを考える。 つまり原材料、部品、部材・・・。
      • 顧客セグメンテーション: また二次元マトリックスを使う。 ビジネス行動の特性、ニーズの洗練度や高度化、価格敏感度
      • 売上方程式: 因数分解=数式化することで、何が要因になって売上が上がるか理解する。 これによってどの要因をいじることが売り上げ増加への近道か分析できる。 例えば;
        • 売上=購買顧客数 X 顧客一人当たり購買単価
        • 購買顧客数=ターゲット人口X認知率X店頭接触率X購入率
        • 顧客一人当たり購買単価=年間購入回数X一回あたり購入点数X単価
      • ベンチマーキング: 様々なパターンがあるが、やはりマトリックスを利用するのが判りやすく感じる。 例えば比較したい項目(販売にいたるプロセスなどがお勧め)を一つの軸として、もう一つの軸に他社と比較して優れている、劣っているを点数化してプロットする。 折れ線グラフで競合A, B, Cと自社としてもいい。 ポイントは比較項目を何にするか。 やはり顧客視点で何が求められているかで項目選択するのが自然。
    • 市場の科学のコツ
      • 仮説を立てて、後でそれを検証する方が効率がいい。 演繹法的(Deductive)アプローチ。
      • 現場に出る。 顧客の話を聞く。 現場の人の話を聞く。
      • フォーカス。 一番重要なところ、つまり成功すれば効果が大きい分野に絞る。
      • 顧客の購買行動には合理性があると信じる。
      • データによる客観的判断。
      • 100%でなくてもいい。
  3. 標準化戦略とカストマイズ戦略
    • 標準化は効率が利益幅が大きくなる可能性が高く、カストマイズ戦略は顧客の忠誠度を高める。
    • 一方標準化は市場の飽和によって低価格化が進む恐れがある。したがって投資のリスクを見込まなければならない。
    • カストマイズ戦略は顧客リスクをコントロールする必要がある。 つまい顧客が伸びないと、自社のビジネスも伸びない宿命を負う。 どの顧客にカストマイズ戦略をとるかの選定が重要になる。
  4. 大切な顧客を見極める
    • 顧客の収益性を把握すること。
    • 収益性に基づき、セグメンテーションする。
      • 儲けや成長の源泉となる顧客
      • 広告塔、ショーケース的な位置づけの顧客
      • 捨てる顧客
      • 時間軸の視点を持ち、いづれ勝ち馬になる顧客をみつける
    • ディープ・カストマー・デリバリー
      • 自社の視点による評価軸と顧客、業界の評価軸の違いを見つけ出す。
      • 敗因分析で顧客の認識を見つける。 負けたときはチャンス。
      • ニーズ深堀マップの利用。 表面上のニーズをAとする。 でも真のニーズをXとする。 Xを達成できる他の手法オプションをB, C, D...とする。 それぞれの手法A, B, C, Dを並べてPros Cons比較を行い、最終的にどのオプションを取るかの評価を行う。
      • 常に顧客の経営課題を考えることが、この項のキーポイント。
    • DMU (Decision Making Unit = 意思決定主体)
      • 平たく言えばディシジョンメーカーのことだが、組織単位も指す。 転じて意思決定分析手法の意味がある。
      • DMUマップとは、顧客の購入決定プロセス(稟議プロセスのみならず、選定に関わる関係者それぞれを一プロセスとして分類する)を図示していく。
  5. 顧客への新しいアプローチスタイル
    • ミッション別営業スタッフ
      • 顧客に応じて多様な営業スタッフをそろえる。 例として、開発営業、標準品プロモーション営業、特約店担当営業、通販企画スタッフというように。
    • KAM (キーアカウントマネージャー)
    • チーミング
      • ソリューション営業(顧客のニーズを拾い出してコンサルティング的に総合提案をする営業体制)を行えるように、チーム内にそれぞれ専門のエキスパートを準備する。 ただし、専門性が高くなるため個々人への会社のサポートが不十分になる可能性が指摘され、これを解決するために専門性を共有化できる取り組み、例えばマニュアル化などが必要になる。
    • SFE (Sales Force Effectiveness)
      • Step 1 : 現状を診断して定量評価できる指標を作る。 現場でのヒアリング、営業同行して個々の営業担当の行動比較を行う。
      • Step 2 : 優れた営業担当の行動手順を雛形にマニュアル化する。
      • Step 3 : マニュアルをベースにトレーニングを実施する。
      • Step 4 : 管理職へのトレーニング、特にPDCA(plan-do-check-analysis)が回るようになるまで教育を継続する。 このStep 4がもっとも重要。
追記:
実は著者の今村先生には、この本を読んだ後に連絡を取らせていただいて、当社のアドバイザーとして何度かお越しいただいている。泊まり込みのワークショップにもご参加いただいた。実に人間としても器の広い、魅力のある方であることを付け加えさせていただく。(2020.4)

2011/11/20

「法人営業 利益の法則」 山口英彦氏著




マーケティングの全般を網羅したいい教科書はないかとアレコレ探している。 世にマーケティングや営業戦略の本は多いのだが、自説の理論説明に追われてしまうのか、素人が読むとかなり断片的に感じてしまう。 
そんななかで、失礼ながらベストセラーとは言えず、かなりニッチなのだが、うまくまとめている本を3冊見つけた。 いづれもビジネスコンサルタントの方々が書かれているのが特徴で、なるほど研究者が書いた本と比べると、理論的でありながら実践的な印象を受ける。 筋立ては違うが、伝えようとしている本質の部分は概ね重なっている。 それぞれの内容を確認のためにまとめておく。 

 著者の山口氏は東大からロンドン大学MBAに進み、東銀、BCGを経てコンサルティングファームを経営されている。 ご自身も営業経験があり、その中での失敗例・成功例を元に、初めての人にも判りやすい書き方を工夫している。 

論理的には「客をみつけ」「関係を深め」「利益を出す」という順序で、その3つのプロセスを継続できる仕組みづくりによって「勝率を上げる」のだが、本の構成としては敢えて「利益を出す」部分を頭に持ってきている。 「利益を出す」ことが目標なのだから、というメッセージであるとともに、本の「つかみ」でもあるのだろう。


①どうやって「利益」を上げられる営業が出来るか。
  • ケーススタディ:
    食品メーカーの元気のいい営業マンが顧客の要求に応えながら売り上げ実績を上げるが、あるとき実は利益が出ていないことを知り、悩みにはまる。
  • 説明:
    • 顧客の要求に応えるのにはさまざまな方法があるが、商品を扱っている以上、これが顧客の求めている仕様に変更してより顧客の要求に合致するのが理想的である。 顧客は喜ぶし、営業も顧客に感謝されるうえに、売り上げが上がる。 一見いいところ尽くめであるが、そこに落とし穴がある。 標準品でなく、特注品というのはそれだけ会社としての手間が掛かる。 場合によって材料費、製造コストも上がる。 特注品なので数もでないが、その割に高くは売れない。 一般的には赤字になっていることが多い。
      この状況から抜け出る方策としては4つ考えられる。
    • マス・カストマイズ。 レディーメイドのスーツがいい例。 顧客ニーズにミートしたカストマイズが出来れば付加価値が上がり、価格を上げられるチャンスが高くなる。 また製造方法にも工夫がいる。 いろいろな組み合わせが可能なモジュール化の導入はそのひとつ。 なるべくサプライチェーンの下流部分で変更しないといけない。 たとえば原料からひとつひとつ変えてしまうと、膨大な仕掛在庫が発生し、却ってコストを押し上げる。 
    • バンドリング。 ファミレスのハンバーグ・セットがいい例。 単品でも注文できるが、セットにするとお得感が出る。 実際の原価は良く知らないが、サラダやスープ、ご飯などはコストは殆ど掛からないだろう。 要するにカストマイズと標準品を抱き合わせてメニューに載せ、利益が取れる商品が一緒に売れていく仕掛け。
    • 将来的に儲けるためのカストマイズ。 ITシステムにはこういうケースが多い。 導入時はフルカストマイズだが、ご承知のとおりその後も間違いなくソフトの追加変更がある。
    • 知恵のなる木。 この顧客では儲からないが、そこで作ったカストマイズ製品を、標準化して別な顧客に販売する。 この場合、当該顧客が広告塔として業界内でも影響力を持っていることが望ましい。 またカストマイズ時から将来の標準化を見据えた企画・設計が必要。

②どうやって顧客を探し当てるか。

  • ケーススタディ:
    まだ実績の無い新規ターゲットである、病院向けのITシステム受注に失敗し、購買担当者に理由を聞くと、他社の上層部との付き合いの深さという答え。 ところが良く調べてみると、顧客の意思決定者とのコンタクトをしていなかったこと、さらにそのニーズをつかんでいなかったことが判る。
  • 説明:
    • 新規顧客の開拓はビジネスを維持するうえで重要。 一方で営業マン、そのマネージャーも既存の顧客に行きたがる。 そのほうが売り上げが上がるから。 
    • 法人顧客の場合、意思決定者が複数居る場合があることと、経済合理性を考慮して決定することがその特徴。 
    • 顧客から見ると既存サプライヤーを切り替えるリスクが存在し、そのリスクを補うほどのいい提案がないと難しい。
    • 経済合理性とは何か。 重要なのは、「顧客が購入する目的と、こちらが提案する解決策の合致」を見せること。 例えばテレビを作るための部品を求めている顧客に対して、自社の実績や規模を熱弁してもあまり効果はなく、「それよりこういうテレビを作られる予定と伺っているので、この部品が役に立ち、しかもコストが安い」と話すほうがいい。
    • 複数の意思決定者はそれぞれ視点が違う。 それゆえ、意思決定により多くの人物が介在することは極力避ける必要がある。 
    • 顧客社内のルールも聞き出す。 予算枠、稟議ルールと決裁権限者、決定タイミング等も当然必須情報。


③どうすれば顧客を逃がさないか。

  • ケーススタディ:
    転勤してきた若手営業に担当が替わったばかりの顧客。 顧客側の担当者もほぼ同じタイミングで替わった。 訪問頻度が下がり、また顧客からの新たな依頼にタイミングが合わず、応えることが出来なかった。 ある日突然、取引停止の連絡。 顧客からの重要なサインを見逃していた。
  • 説明:
    • 取引の継続はどうやって達成できるか。 判りやすい3つのパターン。
      • Product Innovation (圧倒的な商品力;Apple, Sony, BMW)
      • Operational Excellence (絶えず生産・販売の改善をする力;Toyota, Walmart)
      • Customer Intimacy (顧客との親密性;Ritz Carlton, IBM)
    • 新規顧客を獲得した際に確認すべきこと。 「なぜ当社を選んでいただきましたか。」



④どうやって勝率を上げるか。

  • ケーススタディ:
    銀行営業マン。 本社から営業プロセス管理の徹底が求められているが、結局ノルマ達成のために従来からのやり方をして成績を上げる。 一方プロセス通りに営業する若手は成績が上がらない。 ただ長期的に見た場合は・・
  • 説明:
    • 低成長のいまの時代、従来どおりの営業手法では問題が出てきている。 「営業手法の見える化」、つまりプロセス化によって以下の点について改善が期待できる。
      • 改善ポイントが判らない。
      • 変化への対応が遅れてしまう。
      • 人材育成が非効率になる。
      • 短期志向になりがち。
    • 営業活動を標準化する。 そのためには営業の活動を整理し、あるべき行動プロセスを設計する。
    • その上で営業マネージャーの仕事は、そのプロセスを部下に浸透させるべく日常的に指導すること。

以上

2011/08/20

プレゼンテーション作成と説明時のポイント


古いノートを整理しているといろいろ出てくる。 プレゼンをするときか、準備をするときの心得だと思う。 出所不明。 内容的にアメリカン人が言いそうなことが多いので、その手の本を読んだのか、それに多少自分の経験を入れたのかも知れないが、もう良くわからない。 
一応ここに書きとめておいて、何かのときのヒントに使おうと思う。

  1. Wait for ready
    • これは始まるまでの準備をしっかりやろうと言っているのか、プレゼンを開始するときの聴衆が静まるまで待つと言っているのか。 その両方だろうか?
  2. Start from the point
    • 単刀直入に言いたいことを最初に述べる。 これは大事。
  3. Have pauses at complex thing
    • 複雑なところは、聴き手が理解できるまで待つ。 沈黙は金なり、ではないが対話の中では重要。 一番難しいが。
  4. Balance 具体性and抽象性
    • 実例を挙げる具体性と、コンセプト的な部分のバランスをとる。
  5. Ask someone's check
    • 誰かに見てもらい理解しやすいかどうかチェック。 ・・・これは自分の経験だな。
  6. Use key word
    • キーワードをちりばめる。
  7. Prepare logic for each points
    • 論理的に。
  8. Use the same logic 
    • 主張に一貫性を。
  9. Words to summarize
    • 一言で言えば何々、と言えるように。
  10. Question to get attention
    • 聴き手が息切れしないように、質問を入れてみる。 場が緊張し、眠気が取れる。
以上

阪神時代の星野監督心掛け八か条

 個人的にはさほど関心が無いが、以前の上司が好きだった星野監督。 その心がけ八か条というのが古いノートにあったので、写しておく。 


1. リストラは、するのが大変
2. いままでの全てを残していく
3. その場で具体的に指示する
4. 迷ったときは前に出る
5. コーチに任せて厳しく接する
6. 大量リードに慢心しない
7. ネガティブスパイラルになると連鎖する、連鎖(連敗)を止める
8. 二、三年先を見つつ今を如何に大切にするかを考える

花のある人だが、あまり勝てていないですよね(失礼)という印象がある。 とは言え、ここに挙がっていることはまともです。 当たり前か。

2011/08/16

ドイツ史10講 坂井栄八郎  (岩波新書)


東大名誉教授の坂井氏が厚さ1センチの新書に2000年に及ぶドイツ通史を書いたものだが、さすがに薄すぎた感がある。 教科書をギュッと圧縮したような印象があって、読む側もそこから本質的なところを読み取るののは難しい。 かと言って10センチのみっちりとした本を読めとなると、途中で挫折するであろうから、初心者は文句を言ってはいけない。

ドイツが長い間、小国に分かれていて、統一国家になったのはほんの150年前のプロシアがドイツ帝国になったときである。 それまでなぜ統一できなかったのかはずっと疑問だった。 また教科書に突然現れる神聖ローマ帝国とは何ぞやとずっと思っていた。 歴史辞典を開いてもその疑問に答えてくれていない。 この本を読んでも、まだ漠然としているのであるが、読み終わった後の理解を書いてみる。 

  • ドイツが小国に分かれていた理由
    • もともとゲルマン諸族は地域と部族に分かれていたため、小さくまとまるのが自然であった。
    • 山間部の多いゲルマンの地理的な理由。
    • 逆にフランス、スペイン、イギリスが比較的早くから統一国家を作り出せたのは、ローマ帝国による比較的大きな土地を管理するための行政組織が残され、かつ整備されたローマ街道によって物資と情報の流れ維持され、これらが中央集権維持のために幸いした。 
      これは世界史的には寧ろ特殊といえる。
    • カトリック教会組織が各地に修道院を設置し、王侯の行政と一体化していたが、同時にこれが小国割拠を促進した。
    • プロテスタント(新教)とカトリックの争いの中で、最終的に二つの宗教をそれぞれの小国が好きに決めていいことになった。 それにより、小国それぞれで宗教が入り乱れることになり、より一層統一を困難にした。
    • 神聖ローマ皇帝はドイツを見ていたというよりは、ヨーロッパを視野に入れており、ドイツ統一にあまり関心がなかった。 皇帝の中にはドイツに行ったことが無いとか、ドイツ語がしゃべれないという人もいた。
    • そもそもドイツ国家という意識が無かった。 ゆえに、ドイツは一つの国家でなければならぬ、という考え方は、近代になって英・仏・西・露などの強豪国家に対抗するために出てきたナショナリズムに由縁する。
  • 神聖ローマ帝国とは
    • これは歴史家でも答えに窮するようである。 
    • 発端はゲルマン民族国家であったフランク帝国を、イタリアのローマ周辺の所領を割譲し、寄進してくれた見返りとして、ローマ教皇が貴国は「ローマ帝国」であるとしたから、神聖なるローマ帝国となった。
    • その後ドイツ諸国でその時々に神聖ローマ皇帝をローマ教皇から認めてもらっていたが、実権があったとは言いがたいケースが散見できる。 
    • つまり神聖ローマ帝国とは国家とは言えず、緩やかな諸国連合と呼んだほうが実態に合う。 皇帝はその象徴ではあっても、治めることはなかった。
    • 皇帝は、自身の直轄領以外の諸国に横槍をいれることはなく、寧ろ入れることが出来なかった。 ハプスブルグ家の一時期、あまりに皇帝の所領が増え、実力が増すと、他の諸国は皇帝の力を削ぐための行動をとった。
    • 当然中央集権でもなく、帝国の首都がどこかもその時々による。 
    • 法律も諸国によってさまざまで、厳格に統一されたものではない。
    • いまのEUに非常に似ている印象を受けた。 もちろん行政、立法にわたる意思決定システムや各国家の権利義務においてその比ではないが、連邦としての捕らえ方が近い。 EUというのはドイツ国民からすると、受け入れやすい考え方だったように想像する。


ところで、オーストリアはやはりドイツの一つなのであろうか。 長年の領土の出入り、世界帝国ハプスブルグ朝のおかげで他民族国家であるオーストリア。 とはいえ、ドイツ系民族がマジョリティであり、当然ドイツ語を話し、共通のシンパシーを持つ。 次回への疑問にとっておく。

戦略プロフェッショナル 三枝匡 (日経ビジネス人文庫)

 書いた当初は否定していたらしいが、自分の体験をつづった小説仕立てのビジネス書。 メッセージのひとつに若いときから経営の実践体験をするべし、がある。 経営者の立場にたって、困難にぶつかった時には、そのときの年齢は関係なく、20代でも50代でも同じように悩み、同じようなルートを辿って解決の糸口を見つけていくそうである。 これは理解できる。 またアメリカと比較して、日本は若い世代がこういう体験をすることが限られていて、ここが決定的な差になっている、という主張がされている。 これも全く同意。 では日本でいくら優秀でも20代、30代の経営者を雇うだろうか、チャンスが転がっているだろうかというと、これは否。 
この三枝さんという方は相当に優秀な人で、三井化学からボストンコンサルティングに転職し、日本人として始めてアメリカ・ボストン本社に抜擢されて赴任した。 その後の米国留学生活の状況を読むに、決心したことはどんなリスクがあろうが徹底的にやりぬくというタイプの人で、だからこそ若いころに大きな仕事を任されたのだろう。 翻って超長期不況の只中の日本でいまの若い人たちはリスクを取るタイプが多いのか、それとも安全な株を買うタイプが多いのか。

さて、肝心な内容はだが意外に古典的で、基本中の基本である。 スポーツでも基本が大事と言うが、プロになるほどに基本が大切なのだろう。

  • 市場の把握=プロダクトライフサイクル(PLC)
    新しい事業に関わることになったときに、最初にやるべきことは、そのビジネスが、導入期・成長期・成熟期・衰退期のどこにあるのかを見定めること。
    • 導入期・成長期初期: 参入が多い。 シェアも変わりやすい。 重要なのは製品の優位性。 価格差は、まだ製品の信頼感が確立していないので、効果は限定的。
    • 成長期: どの企業も似たような商品を出せるようになる。 営業体制、アフターサービスなどの面展開の蓄積が重要。 成長期後半には、価格競争が起こる。 価格競争に勝つには販売量を稼いで価格対応力をつける必要がある。 これはまた資金量の戦いでもある。 脱落するメーカーも出てくる。
    • 成熟期: 少数安定の競合関係になる。 これを複合的優位性と言う。 マーケットシェアはほぼ確定して、新しい優位性を出す余裕は無い。 逆に言えばトップ企業の勝ちパターンとなる。
    • 市場の成長率と自社の売り上げ成長率を比較してみるといい。 このときに、グロスの成長率だけでなくて、自社製品や地区にセグメントして、比較してみると弱いところが良くわかる。
  • 自身のポジションの把握=事業成長ルート(プロダクト・ポートフォリオ PPM)
    • 縦に成長率(上が高い、下は低い)、横にマーケットシェア(右が弱い、左が強い)の表を作り、自分らの事業がどう動いたかをプロットする。 これはプロダクトではなく、事業そのものがPPM上のどこからどこに移ろうとしているかを描いて整理するもの。
    • たとえばいま私が担当している事業だと、最初競合がほぼなく、成長もなかったので、Cash Cow。 そこから成長率がいきなり上がって、Star。 その後競合が出てきて、一度シェアが下がり(Problem children)、さらに成長率が下がり始めてDogになりかけんとしたところを何とかシェアを上げてCash cowに。 今後はさらに成長率が下がりCash Cowになり続けるべくシェアを追うべし・・・といったところだろうか。
    • ただしこれはかなり異例なパターンで、通常のルートは右上のProblem childrenからスタートして、Star ⇒ Cash cowの栄光ルート、Dogへのどん尻、あるいは混戦ルートを辿る。
  • ターゲットの選定=セグメンテーション
    どうマーケットをセグメントするか。 つまりどう「絞る」か、すなわち「捨てる」かが企業戦略のコアになる。 ここが戦略の肝になるところで、うまくセグメントが出来れば勝ち戦だそうである。 
    • 手法としては二つあり、それは、①先に商品があるので、誰を顧客にするか、②先に顧客がもう決まっているので、何を売るか、である。
    • いづれの場合も、シンプルなものが良く、ブレストで探していくのがいいとされる。 一例としては、縦に売り込みに成功した場合の当社のメリット、横に顧客側の製品に対する興味とニーズの強さを入れて、その中に顧客名を入れていくやり方がある。 つまり、供給側のメリットと需要側のメリットを 2 x 2のマトリックスで表して、ターゲットを決めていくという方法。 
    • 常識を使えば、お客も喜び、こちらも嬉しいというwin-winになるボックスが優先度No. 1なのは自明だろう。 このようにボックスごとに優先順位をつけていく。
    • 肝心なのは優先順位をつけた以上、他の顧客は待ってもらうこと。 そうしないと絞った意味が無くなる。
    • フォローが肝要。 セグメンテーションに基づくアクションが確実になされているかのモニターチェックを週単位で行うことで、確実な実行を期待できる。 なおかつ円滑なコミュニケーションが期待できる。 ここをしないとセグメンテーションしただけになり、効果が期待できない。
こういう戦略において非常に重要なのは、誰にでも理解できるようなシンプルさだと云う。 判りやすいとうことと、実行しやすいということの両面から言えることだそうだ。 マトリックスもせいぜい 2 x 3程度に留めること。 
またこれらを実行するにおいて、①覚悟があるか、②緻密にやったか、③夜、平気で寝れるか、を自分に問う必要がある、としている。

読み終えて得るものが多い、いい本だったと思う。 理論は知っているものばかりなので難しくないが、実体験に基づいているせいか、具体的で判りやすい。 また単純に小説としても楽しめる。 若い人が読めば、「竜馬が行く」と同じような高揚した気分になって仕事に励みそうな本である。 惜しむらくはもう少し若いときに読みたかった一冊。

2011/07/23

近所の開業医


 中学のにきび坊主のころからよく鼻にできものが出来る。 最初少しピンク色になり、さわると微妙に痛い。 それがぷーっと赤く膨れ始め、熱を持つ。 不思議に出張しているときに出来ることが多いので、出張には薬を持っていくのだがなかなか効かない。 昨日欧州出張から赤い鼻で帰国して、週末を過ごす。 土曜日の今日であれば皮膚科も開いているので、台風一過の少し涼しくなった街の中を、買い物袋を提げてとぼとぼと出かけた。

いま住むマンションはバブルの頂点で買ってしまい、売るに売れないどうしようもない代物なのだが、場所が便利なことが取り柄だ。 老人になると近所に病院が多いことが大切と効く。 最近アレコレと病院にいくことが多いので、老いた時の気持ちが良くわかる。 有難いことに自宅から1キロ以内に歯医者は10軒、内科は5軒、耳鼻科、整形外科、皮膚科、眼科、肛門科、泌尿器科、婦人科となんでもござれだ。 この付近は年寄りが多いので需要もあるのだろう。

その皮膚科医院には5年振りに行った。 受付を済ますと今月で病院を閉めると言われた。 1時間ほど待って、診察室に入ると、外で待っている患者の誰よりも病人とはっきり判る院長がいた。 やせ細って昔のみる影も無い。胃がんだろうか。 使っていた塗り薬を見せて、症状を伝える。 「あんたが持っているその薬は湿疹用で、効かないよ。 どこで貰ったの?」 かすれた小さい声で聞かれた。 「関西に出張中に京都駅の前の総合病院で出してもらいました。」 「そんなの出すのは皮膚科じゃないよ。 薬はクラリスがいい。 あと塗り薬はダラシンがいい。 2週間分くらい出しとこう。」 そういいながら院長先生は少し考え事をして、「あんた、よくオデキは出てくるの?」と聞いた。 「はい、半年かそこらに大きいのが、小さいのだと3ヶ月に一回位出ます。」と答えると、「疲れると、出やすいね。 汗が出る季節もだめだ。 良く出張するのかい、それが良くないんだろうね。 ビタミン剤も出しておこう。 そうだ、ここはもう閉めるから、多めに出しておこう。」、そう言われて診察が終わった。

病院を出て、いきつけの薬局に行く。 この近辺には薬局が少なくとも5軒はある。 出された薬の量を見てびっくりした。 60日分出ている。 疲れると欠乏するということでビタミンB系の薬が二種類とクラリス120錠づつ。 手に乗せると、取り組みに勝ったお相撲さんの賞金袋くらいの大きさだった。 〆て4,600円。 ありがたいと思うべきか、少し迷う。 2-3年は保存できると薬剤師が言うので少し安心した。

つまらないことが気になるものだ。 そういえば、皮膚科医院の向かい側の内科は去年廃業した。 確か先生が病気になったと聞いた。 考えてみると、付近の開業医はほぼ全て私より年上だ。 病院があると安心と思っていても、医師だって歳をとる。 街も一緒に歳をとる。

2011/07/10

個性分析のための4分割手法

 こういう個性の人なのかと判っても、それだけでは意味が無い。 それぞれの個性の強い人はどんな考え方をする傾向があるかを知れば、その個性を持つ人との人間関係がよりスムースになるかも知れない。 ということで、下記を参照のこと。


しばらく前に参加した研修でやっていた個性分析の手法。 精度に関しては、まだ疑問の余地が大いにあるものの、「人」を分析するうえでは面白い考え方だと感じたので書いておく。 比較しては申し訳ないが血液型や誕生星座なんぞに性格や運命の根拠を求めるよりは、よっぽど建設的だと思う。

大きく分けると個性には4つのパターンがある。同じ人でもこの4つのパターンをそれぞれ持っており、傾向としてそのどれかが強い。私の場合は下記にあげる「調整型」というテスト結果が出たが、それは私の個性のうち40%を占めるだけで25%づつはクリエイティブ型と完璧型らしい。ワンマン型の部分はあるにはあるが10%とかなり小さく、自分でも納得である。 大まかな傾向を記す。 なお、この研修ではこの4つの個性を判りやすく色で表している。
  • 調整型 GREEN
    • 思いやりがあり、頼りになる。忠実で素直に受け止める。情緒安定、冷静。
    • 頑固で怒りっぽい、決められない、孤独、受身、意固地
  • ワンマン型 RED
    • 雄弁で精力的。意志が強く、積極的。決断力があり、競争心が強く、結果重視。
    • 激しやすく、攻撃、高圧的。思いやりが無く、独りよがり。
  • クリエイティブ型 YELLOW
    • 雄弁で説得力がある。活力に満ち、社交的。情熱的で、心が広い。
    • 衝動的で興奮しやすい。大げさで思慮に欠け、無秩序。
  • 完璧型 BLUE
    • 勤勉、完ぺき主義。分別がある。ルールを重んじる。細かく几帳面。粘り強い。
    • 融通、機転が利かない。冷たい。懐疑的、批判的。心が狭く非難がましい。
調整型はワンマン型と対極にあり、そりが悪いケースが多い。 同じようにクリエイティブ型と構築型も対極にある。 日本人の場合は調整型が多い傾向がある。
小泉順一郎はクリエイティブ型の黄だそうである。ビルゲーツは完璧型の青。


☆見分け方
ここがかなり難しいが、教科書どおりに挙げてみる。 身の回りの人でどう分類するか考えてみると面白い。 ただ、前出のように、100%一つの個性しかないということはあり得ず、傾向として出るので、結果としては私のように黄色と青がかなり入った緑・・というようにいくつかの個性が混じっていることを予め理解しておきたい。

  • しぐさ
    • オープン、表情が豊か、体が触れる、リラックスした姿勢
  • 言葉
    • 感傷的、ため口、個人的なことを聞いてくる

      ☆これが当てはまれば調整型あるいはクリエイティブ型。
  • しぐさ
    • 視線をそらさない、前かがみに聞く、ジェスチャーが多く、堅い握手をする。攻撃的、挑発的になりやすい。
  • 言葉
    • テンポ良く自分から話しかける、自信が感じられ、すぐに応答する。

      ☆これが当てはまればクリエイティブ型か完璧型。




☆付き合い方を考えるヒント

  • 調整型 GREEN
    • 人から理解されたい、かといって晴れがましい賞賛は必要なく、いい仕事が出来たと確認できるちょっとした褒め言葉が嬉しい。
    • 数多くの知り合いよりも一生の友人が居ればいい。
    • 人を助けたい。奪うより、与える方がいい。
    • 率直にアドバイスを受け入れる。でも非難をしたり、お世辞を言ったりしないで欲しい。
    • リスクを取るのは得意ではない。 何かの決断をするときは判断するための十分な情報やほかの人の意見が欲しい。
    • お互いを信頼した仲間と環境の中で仕事をするのが嬉しい。
  • ワンマン型 RED
    • 時間が勿体無いから完結に要領良く話して欲しい。 事実さえ知ればいい。
    • 目標さえ明確になれば、それ以外の余計な情報は要らない。
    • 実績を褒めて欲しい。自分に能力があることも見栄えがいいのも判っている。
    • 人に仕事を任すのが好きだ。ただし成果を求めるし、信頼を裏切って欲しくない。
    • リスクを取るのは恐れない。ただまず数字と事実が必要。
  • クリエイティブ型 YELLOW
    • リラックスしてカジュアルにして欲しい。ビジネスよりまず人間関係だ。
    • 仕事は楽しく、人間も楽しく、情熱的にやっていきたい。
    • 大きな絵を描きたいし、夢を持ちたい。
    • 熱しやすく冷めやすいので、短期プロジェクトをやるのがいい。
    • 多くの人と付き合える機会が嬉しい。一緒に出かけたり、ゲームやちょっとした冒険。
  • 完璧型 BLUE
    • さまざまな情報を分析して、決断したい。
    • 無用な褒め言葉は要らない。 具体的にどんなところが良かったか言って欲しい。
    • 時間通りでやっていきたい。 だから回りの環境もルーズだと嫌だ。
    • 人見知りするタイプなので、周りが知らない人だらけなのはストレスになる。
    • 急な変更、突然の依頼は好きではない。 計画通り、予定通りがいい。

注意すべきは、あまり人間を4つのステレオタイプに分類しないこと。 人間の個性はもっと複雑なものだ。 利用方法としては人について考える時のヒントにすること。 自分の性格判断にもいいかも知れない。 これを読んでみると、自分にはワンマン型の要素が非常に少ないのが良く判って面白い。

参考: 自己診断テスト http://www.insights.com/

ドイツと製造業

German car production line

先日或るドイツメーカーの営業トップと食事をしていて、こんな話しをした。
「この15年近く、イギリスやアイルランドは外資を呼び込んでリーマンショックまで景気が非常に良かったよね。 一方でドイツ経済はかなり悪かった。 いまは丁度それが逆になっている。 ドイツが欧州経済を引っ張り、あれほど景気の良かったスペイン、アイルランドなどがPIGSなどと言われている。 EUとして、一緒にいることでうまくバランスが取れているね。」と語りかけると、こういう答えだった。 

「基本的には自前でものづくりをしっかりすることだと思う。 アイルランドやスペインは、外資に対する政府の優遇によって景気が良くなっていった。 しかしその結果として賃金が上がった。 また政府もいままでの投資の元を取ろうと優遇税制を撤廃する。 そうすると外資は手のひらを返してもっとコストの安いところに去っていく。」 
「ドイツの場合は、東ドイツと一緒になった後に負担が大きくなり大変だった。 ただそれがいまはようやく終わり、軽くなった。 かつ苦しい中でもしっかりものづくりをしていたことが、いま効いている。 イギリスやアメリカのように金融テクニックを駆使して汗をかかずに儲ける方法や、政府の優遇策だけに頼って外資を呼び込む方法をとっていたら、おそらく今日はなかったと思う。」 
「日本とドイツはものづくりに思い入れを持つという意味では似ているところがある。 長期的な視野に立ってものづくりを捨てるべきではない、そうすれば将来必ず報われる。」

日本のものづくりのやり方がいま大きく変わっている。 どんどんものづくりが海外に逃げていき英米型の経済システムが進行するなかで、10年後ははたしてどちらの結果になっているだろうか・・?

2011/06/22

広報活動の前の整理

畑がまったく違うが、最近読んだ広報活動の基本書に書いてあったこと。 記者会見、取材を受けるときに事前にどういう準備が必要か。 まず情報を3つに整理し、さらに6つに分けて、対応をそれぞれ使い分けるというもの。


  • 聞かれなくても言いたいこと
    • すでにプレスリリースに書いてあること
    • プレスリリースに書かれていないこと
  • 聞かれたら言うべきこと
    • まあ言っても差し支えないこと
    • 仕方なく言うこと
  • 言いたくないこと
    • 今は言えないが時期が来たら言えること
    • 一切言えない本当の極秘事項
想定問答集を作るときにも、単に思いつきで羅列していくよりは、この6つのカテゴリーに分けて分類していけばいいと思う。 眺めていていたずら心が沸くのは、「聞かれなくても言いたいこと」に関しては、「聞かれたら言うべきこと」的な反応で話すと記者からすると「裏ネタ」の印象になり、却ってニュースバリューが出そうなのでやってみたい。 ただ質問されないと始まらないので、餌を蒔くかサクラの準備がいる。 と、まあ記者会見なんぞには縁がないのに考えてみる。 ちなみに営業トークの準備にも応用可能かも知れない。

2011/06/11

大先輩からアドバイスを貰うということ

 自分の年齢が上がってくると、会社生活の中では仰ぎ見るような年齢差の方からアドバイスを受けることは少ない。 先日日本を代表するある家電メーカーの相談役(十年以上前に社長を勤められていた方)とお会いする機会があった。 上司の英語の通訳をしているうちに、「ところで君は勉強をしているか。年は幾つか?」と聞かれて、「いや、もう大して勉強はしていません、もう若くなく50を超えました。」と答えると、「まだまだこれからじゃないか、どっぷり勉強せなならん。 何をやっているのか。」と優しく苦言を呈された。 いまふうな表現で言うと「いじってもらった」と言うのだろう。 また会う機会があれば、創業者の話や、そのメーカーがかつて大変な苦境にあったときに、どういう気持ちで難局にあたられたのか聞いてみたい。 
そういえば、経営者だった祖父にも聞きたかったことがいろいろある。 最近になって知ったが、戦前の日本を代表する企業家の知己を得ていたようだ。 怖い存在だったが、歳を経てやわらかくなっていた。 毎晩の長時間の晩酌に付き合うのが面倒で、さっさと自分の部屋に引き上げていた。 いまとなって思えば、というより寧ろビジネスの世界を一通り経験しつつあるいまだからこそ聞いてみたかったことが沢山ある。
教えを請えるというのはかけがえのないことである。 ただ、その機会を逸することが多い。 いつの間にか、自分よりも相当長く経験をされた方からアドバイスを得ることがなくなる年齢になった。 でもまだチャンスは残っている。

2011/05/07

日本でいちばん大切にしたい会社  坂本光司

 日本の大企業(特に国際的な上場企業)には愛想を尽かしたというのが本音だが、実際にはそこからいただく商売も多く、会社人である以上なかなか公には言えない。 
その問題点のひとつは、会社は株主のものである、という単純でわかり易い論理の元で経営されていること。 株主と言っても最近はワンクリックで株を売買している短期株主、あるいは株主に大きな影響を与えるやり手ファンド・マネージャーがその実態である。 彼らの行動ロジックはなるべく短い期間で株の値上益を手にすることに尽きる。 企業の側からすると長期的な経営視点による投資、地道で社会的な貢献はよほどうまくくパブリシティしてメディアに載せることができ、その結果株価が上がることでもない限り、評価の対象外となる。 つまり、好むと好まざるとに関わらず、株式市場の論理の元に経営を続けざるを得なくなってきているのが、いまの大企業と言える。 これらの企業群と強いコントラストで比較できる中小企業を紹介しているのが本書である。

この本には、社員わずか50名、そのうち障害者が70%を占め、斜陽産業であるチョークを扱って50年以上もビジネスを続ける会社や、これまた大きな成長が見込めるとは思いにくい寒天を製造するメーカーが「会社は社員の幸せのためにある」という社是を掲げて50年近く増収・増益を続ける事例、島根の交通不便な地にありながら世界的評価を受ける義肢装具会社など、普通の会社とかなり違う多くの中小企業が数多く紹介されている。

これらの会社に一貫した共通点は、「会社は社員とその家族のものであり、仕入先・下請会社のものであり、顧客のものであり、地域のものである。」との経営信条。 そして「利益を継続的にあげる」ことである。 
できるだけ長く商売を続けるのがそこに働く者の幸福であり、そのためには経営者は、関係するあらゆるステークホルダーのためになること目指すべきで、だからこそ商売も続く、という当たり前の論理である。 一方、それが判っていても、現実にはなかなか出来ることではないからこそ、この本で紹介される個々の企業に大きな感銘を受ける。 規模は追わずに、世のため人のために。 少々古めかしい考え方のように思えるが、実はいまの日立、パナソニック、トヨタ、ソニー、ホンダ、シャープなど、大きな会社の創業期を調べると、必ずと言っていいほど同じ思想を創業者が持っていた。 注目すべきことだと思う。

台湾の震災対応


ある国際的な台湾企業で役員をされている日本人の方に伺った。 台湾でも数年前に大きな地震があった。 日本と同様に被災者への援助が行われたが、その中で日本ではあまり考えられない対応があったそうである。 国やボランティアの寄付によって、まず、屋台の施設や食材が被災地に無償で送られた。 その屋台は被災者の腹を満たすというよりは、商売のネタとして使う。 被災者それぞれの自慢の味をその屋台を使って再現し、そこに全国から人が駆けつけ、たらふく食し、帰っていった。 

こういう話を聞くと、中国民族というのは金の使い方を知っているとほとほと痛感する。 お金を寝かすのではなく、「回す」のである。 東日本の今回の震災で被災された人々は本当にお気の毒としかいいようがない。 善意の人々、電力会社や国から義援金、補償金、援助金と支払われるが、失ったものを補うに足るものではないだろう。 日本人的な感覚では、その日の生活費に回るか、あるいは貯金に回ってしまうだけで継続的な生活支援にはつながりにくい。 失った家を再建できたとしても、職場を失った方も多く、将来への不安は如何ほどのものだろうか。 お金の「ストック」はもとより、「フロー」を失ったショックが長い目で見ればよほど大きい。  
資金援助の必要性はもちろんだが、「フロー」をどう作るかが大切。 率直に言って日本人には不得手な分野であるが、だから知恵を絞らないといけない。

2011/02/26

外資を呼び込め - イギリスに学ぶ懐の広さ

最近欧米はおろか中国、台湾、韓国からも日本の有名企業が買収され、メディアの論評などは少し感情的だ。

もう20年近く前だと記憶するが、富士通の会長が書いていた記事を思い出す。 当時日本はバブル期ということもあり自信満々。 同社はイギリスに本社を持つICLというコンピューターシステム会社を買収した。 イギリスの主だった都市にはオフィスを持ち、欧州大陸にも広くビジネスのネットワークを張っている企業。 買収直後にICLの労組幹部が揃って来日し、富士通の会長に面会を求めたそうだ。 すは労働争議かと同会長は少々慌てたそうである。 当時の私も含めてイギリスと言えば公害と労働争議という古い固定観念がある世代である。 その気持ちは良くわかる。 
ところが労組幹部は会長を前にして「われわれは富士通の投資を歓迎する。」と伝えて帰っていった。 会長はアメリカと比して「イギリスというのはなんと懐の広い国だろう。」と感動したそうである。 ちなみに引き合いに出されたアメリカは当時、自動車メーカーの調子が悪く、日系企業に工場を売り渡すことに反対運動が起こるなど、国全体が感情的になっていた時期である。

 イギリスの自動車で有名なのは、なんと言ってもエグゼクティブの証であるロールスロイス、ベントレー、ジャガー。 大衆車でもローバーやミニは人気が高い。 実はこれらのメーカーにイギリス資本であるところは残っていない。 でも工場は残り、経営にも多くのイギリス人が参画している。
車に関してはイギリスには面白い例え話がある。 「ドイツ人がエンジンを作り、イタリア人が車体をデザインし、フランス人が内装を整え、イギリス人が乗る。」というのだ。 

イギリスは保守党サッチャー政権時の規制排除と外資導入政策。さらにそれを継承した労働党ブレア政権と、経済が高水準で推移した。 元気の無かった「老大国」が、歴史と自由を誇る魅力ある中型国家に変貌した訳である。

結局、実を採ればいいのである。 資本が海外から来る。 でも肝心なことは、雇用が日本に残ればいい。 海外の経営方法は日本の従業員と軋轢があるかも知れない。 ただそれは文化の触れ合いであって、長い目で見れば互いに影響をしあって、最後は自分たちのやり方をより強いものに変えてくれる。

政治の責任は重い。 日系企業を買収したうえで、解体して利ザヤを稼ぐようなハゲタカファンドを許してはならない。 日本のノウハウだけを吸い上げたあとは、従業員を解雇して放り出す経営を許してはならない。 一方で海外企業から魅力ある投資先であり続けなければならない。
経営者の責任も重い。 国が制度を整えるには時間がかかる。 海外からの投資や買収に際して、どう長期的に雇用とノウハウを日本に残すか、契約交渉に全精力を傾けなければならない。 自分だけ多額のボーナスを貰って、後のことは省みずサインすることがあってはならない。

外資と上手く付き合うことで、日本はもっと豊かになれる。 短気な感情論で拒絶するのは、将来の豊かさを放棄するようなものだろう。

決断するときの心得


ある企業の役員の方が言われていた、決断するときの心得。 
参考になったので、覚えとして書いておく。 


  1. 決めたあとは、その後変えない。 
  2. 理由があれば変えてもいいが、変えた理由の説明をし、かつ責任を取る。
  3. 一瞬で決められればいいものの、心にもやもやがあるのであれば 無理にその場で決めない。 迷いがあればそれは人に伝播してしまう。 短くて5秒、長くて2日。 ぐっと我慢する。


ついでに人に言いにくい指示(いわゆる叱責や小言)をするときの心得。

  • その人のこと、その人のためを純粋に思い無心でアドバイスをする。


なかなか常にできることではないものの、それゆえの心得。

2011/01/30

マーケティングの本は探索中

xxx様


 先日お電話いただいて、マーケティングに関する本を推薦すると申し上げました。 
私がこれまで読んできた本の中で、出色の本をいくつかご連絡しようと思ったのですが、よくよく思い返すと、かなりレンジが広くて、マーケティングを初歩から勉強する、 という趣旨からは少し離れてしまいます。 とは言えビジネスの世界でやっていく以上は役に立つはずですし、お約束ですので、下記をご参照ください。 

 その前に脱線しますが、マーケティングとは何かについて少々ウンチクを。  
 そもそもマーケティングほど曖昧なカテゴリーはなく、小職も30年近く「私のバックグラウンドはマーケティングです」、と自己紹介の度に言ってきていますが、 これは単に横文字で言っておけば、それだけで何か凄いことをやってきたのだろうと、聞く人に勘違いをさせることが目的でしかありません。  

 数学や化学のように規則性が或るわけではなく、そもそも経済(人そのもの)を扱うのがマーケティングですので、法則性などはありません。  その辺りが「学問」とはなかなか呼びにくい理由です。 ドラッガーなどの有名な学者がいますので、強いて言えば、それを読んでください、というところですが、 マーケティングというよりは経営学に近くなっていきます。 

 マーケティングとは何かを説明するのは難しいのですが、或る学者が「営業がいなくても売れるための仕組みを作るのがマーケティングだ。」と言っていたそうです。  確かに目指す方向性としてはなかなか名言だと思います。 ただB2Bの場合はネットで販売するわけではありませんので、「営業」無しで売るというのは少なくともこの10年は 有り得ないと思います。 現実的には、「効率的に売れるようにするための一連の計画作成と活動」という表現が小職が持つイメージに近いと思います。 

 マーケティングに方程式はないのですが、プロセスは或る程度規定できると思います。  
例えば; 
①売るものは何か定義し、理解する。 
②誰に売るのかを定義する。 
③どうやったら売れるかを検討し、プランを作る。 
 メーカーの場合はこの順番で良く、すでに長年の得意先を持っているような商社の場合は②-①-③のように、①と②の順序が逆転します。  商売としては②-①-③の方が上手くいく可能性が高いというのが小職の経験則です。  
お気づきのように一番難しいのが③のところで、この部分でいろいろな本が出ています。  
後で挙げる本のいくつかはこの③にヒントを与えてくれるものがあります。 

 マーケティングをする上で重要なのは営業体験です。 技術営業でもいいと思います。  
加えて、例えば営業に関わる法律の知識、さらには会計知識の基本が必要です。 これは「人」とその集合体である「会社」を扱う以上、 その人や会社の行動規則を知る必要があるからです。 私の場合は、「営業社員向けの法律」という本を新入社員の頃に読んだり、 通勤時に簿記の勉強をしてみたり、日経文庫を読んだりして知識を仕入れました。  
 また事業計画を立てることもマーケティングの一部ですので、以前事業戦略論という本を参考にしながら、策定のプロセスを参考にさせてもらいました。  残念ながら、これらは全て絶版ですので、別途何か良い本が無いか探して見ます。 脱線ですが、最近日本ではマンガ解説だったり、 マニュアル本がはやっています。 受験勉強の効率をあげていくうちにたどり着いた結果なのでしょう。 難しい本を読んで意味を考えているより、 この表やマンガを見ればすぐ判るや、という本が多いわけです。  確かに簡単に判っていいのでしょうが、私には、記憶に残らないような気がしてしまいますが。 


 さて、前置きが長くなりましたので、下記推薦図書です。  

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か エリヤフ・ゴールドラット 
        ・・・ この本はマーケティングでは無く、製造部門の中を効率化する過程の中で、「全体最適」とは何か、「部分最適」を追うとどういう弊害がでるかを説明している名著だと思います。 

ランチェスター販売戦略 (1) (サンマーク文庫) 田岡 信夫 
        ・・・ これも古典なのですが、販売体制や、競合先の嫌がる戦略をどうやって立てるかのヒントになります。 かなり実務的な本です。 これ以降、ランチェスター戦略系の本はたくさん出ています。 
  
まず、ルールを破れ―すぐれたマネジャーは... マーカス バッキンガム 
        ・・・人の特徴をどう掴み、どう生かすか、かなり割り切った考え方ですが、マネジメントや組織を考えるうえで役立ちます。 

戦略的思考とは何か―エール大学式「ゲーム理論... アビナッシュ ディキシット 
        ・・・これもいまとなっては古典ですが、ゲーム理論を実社会にどう生かすかを書いた本です。 題名のとうり戦略思考とは何か考えるきっかけになります。  最近はもっとビジネスに生かすための応用を簡単に解説した本もいろいろでているようです。 

 
私にとっては、5-10年にひとつ出会うかどうかの面白い本だと思っています。 前出のようにマーケティング概論的な本ではありませんが、
 参考図書ということでご理解ください。 


 それではまた。