2012/09/23

2020年の住宅・不動産市場 船井総研

 いま2012年だから8年後、2020年に不動産市場がどうなっているか。 船井総研がまとめた研究成果を書いた本。

  • 地価動向
    • 例えば秋田県の人口は2030年までに現在の半分以下になると想定されている。地価もそれに伴い、大幅に下がってくると考えられる。
    • 3.11大震災以降の湾岸高層マンションは契約率が落ちると考えられていたが、2012年前半を見る限りは堅調である。これは耐震・耐火性などの性能や、ウォーターフロントが持つ独特のプレステージが評価されているからだろう。
    • 首都圏の不動産はその観点からもまだまだ強い。アジア全体の不動産価格の25%を首都圏が占める。
    • 地価は株式相場と相関関係がある。ピークはともに1990年。
      2010年は最高価格の50%。
    • 不動産業界(建設業、販売業、それに関連する資材産業)は寡占化が進まず、それに携わる企業数は多い。参入障壁が低く、地域分散型であることが背景にある。
    • 国土交通省の「東証住宅価格指数」により過去からのトレンドは正確に読み取れる。
    • 2020年は人口はより減少する。その結果として、関西地区の地価はダウン、中京はキープ、東京・神奈川は上昇。地方は一般的に大幅に減っていく。
  • マンション
    • マンションは全住宅の約10%程度の構成比率。全国で570万戸 (2012年)。
    • リーマンショック後に在庫は一時12,000戸に膨らんだが、2009年末で7,000戸に調整されている。
    • ただし、経済環境を見る限り、供給量は当面加速しない。
    • 新築マンション着工数は2006年末がピークで、20万戸。2009年がボトムで、2011年は7万戸に回復。それでも2006年の半分以下。 <ここでも株式相場と連動している>
  • 中古市場
    • 国別の住宅代替期間。つまり建替サイクルは、日本が30年。仏・独は80年。アメリカ100年。イギリスは140年!
    • 日本の住宅売買に占める中古物件の割合は13%。アメリカは78%。イギリスは90%!
    • 日本には「穢れ(ケガレ)」を疎む精神環境がある。茶碗や箸に代表されるように、自分以外が使ったものの痕跡を物理的に全て消しても、精神的には汚れが残っていると考える。中古住宅を嫌い、新築を好むのが日本の特徴。
    • 最近はリノベーションビジネスが拡大している。マンションなどは古くなっても住民の相当数が建替えに同意しないと実行できない。それであれば、古い戸建やマンションを購入し、それを改修、性能アップしてキャピタルゲインを得る。


読後感:
 一種の情報誌なので、そのデータを見て何を思うかだろう。
 少子高齢化で首都圏と言えども空き家が増え、社会問題化しつつある。首都圏の不動産はまだ上がるというのが本当なのかはにわかに信じがたいものがあるものの、地方の過疎化がより進むことは否定できない。その移動先は首都圏であり、特に東京、神奈川が中心となり、特に新規物件については今後もあまり値が下がらないことは想像できる。ただし中古物件などはどうだろうか。
 これらのデータとは別に、文化論的に面白かったのは、イギリスの中古物件流通量の多さとの対比。住んでいたから実感できる。アメリカもかなり多いのは意外。仏・独が案外中古物件が英米より少ないのも意外。また、日本人の新築好きを「穢れを忌む」性癖に求めるのは面白い分析で、新鮮だった。

追記(2021年3月):
 読み返してみると船井総研のレポートは当たっていたと言うことになる。人口の流動による首都圏の土地・家屋への相対的需要の堅調さ。及び株価の上昇率。さらに経済政策が金融緩和に偏っていることから、低金利で行くところのなくなったお金が、金融市場、不動産市場に流れたという要因も大きい。コロナ禍において、東京都からの人口が僅かに流出する、という珍しい現象があったが、今後もマクロ的には首都圏の価格は安定していくように思われる。

2012/09/16

日本経済の行方に関する3冊

 何の脈絡もなくこの数ヶ月で日本経済に関する本を4冊ほど読んだ。円高、TTP、金融緩和の是非は国民を含めた議論になっているが、複数の評論家がいると、同じ考えだけ、意見違う。当然素人には、どれが正しいのか判断が難しい。参考になった情報や考え方をまとめておく。

片岡剛士著「円のゆくえを問いなおす」ちくま新書

  • すでに15年間デフレが続いている。(2012年現在) 1994 - 2011年で17%もGDPデフレーターが下がっている。名目GDPも20年間不変である。所得が増えていない。デフレは「悪」である。
  • 円高は産業の空洞化を助長するので「悪」である。
  • デフレを転換してインフレにする必要がある。 同時に、円安に誘導しなければならない。
  • いまのようにだらだらとマネーサプライを増やしても、市中に流れていかない。海外投資に回ったり、使われずに貯め込まれている。
  • マネーサプライはFRB, ECBがそうしているように一気にやらないと駄目。短期的な大規模金融緩和が必要。
  • 為替介入に関して、自国通貨を売る場合は、その資金にあたる自国通貨を発行すればいいだけなので成功しやすい。スイスがその成功事例。逆に外貨売りによる自国通貨防衛策は失敗する。東南アジアがその失敗例。
  • 為替レートはマネーサプライ競争にリンクする。即ち金融緩和を一気にすればインフレになり、同時に円高を終焉させられる。

三橋貴明著「それでも日本経済が世界最強という真実」ワック
  • 日本の対外収支。海外資産582兆円、対外負債342兆円。 〆て240兆円の対外純資産 がある。(2011年9月)
  • 日本国債は727兆円(2010年末)
    その所有者構成は銀行39%、生保20%、基金15%で、海外投資家の所有は僅か4.8%。
  • 政府予算の資産は471兆円、負債は1,049兆円。純資産は大きくマイナス。ただし、471兆円の資産はアメリカ合衆国の倍以上の規模。
  • 一方日本の国のバランスシートで見ると、資産5,615兆円、負債5,366兆円。純資産が249兆円(4.4%)。
  • アメリカ政府の負債は1980年を100とすると2008年は1,400。日本は800。
  • そもそも政府に負債はあって当たり前。通常は経済成長をさせ、インフレによって棒引きにする。財政破綻など気にする必要はない。
  • 企業も家計も多くの資産を持つが、市中マネーストックが増えない。そうなると国が国債発行して増やすしかない。
  • 日本国家は、海外に依存せず国内資産によって成り立っている。だからギリシャのように破綻することは有り得ない。少子化で日本人が最後の一人になっても、莫大な資産と、莫大な負債を相殺して、それで終わり。純資産は残っているはずなので、その最後の一人はアメリカにでも移住して優雅な生活を送れるだろう。
  • 日本政府の支出は切り詰めている。この20年間横ばいが続く。
  • 銀行の不良債権はアメリカは2.7兆ドル、EUが1.2兆ドル。日本は0.15兆ドル。圧倒的に日本は健全。
  • 通貨高で破綻した国はない。デフレと円高は表裏一体。
  • 日本の輸出依存度はGDP比13%。この円高でも輸出があるのは資本財輸出の国だから。消費財輸出の国家とちがって、強い。
  • 日本が対外純資産を持つので経常収支は常にプラスとなる。このため円を買う必要があるので円高が続く。対外純資産は20年前から世界一。
  • GDP辺りのエネルギー供給量は日本を1とすると、EUは1.7、アメリカは2、韓国は3.2、中国は8.7、インドは9、ロシアは18。
  • GDPではなくて、純粋な国富を示す指標としてGNIがある。国民総所得と呼ばれる。これは日本資本が海外で稼いだ金をGDPに足し、海外資本が日本で稼いだ金を減額したもの。内閣府「国民経済計算」によるとGNI資産8,000兆円、負債5,200兆円。国富は2,712兆円もある。内対外純資産は266兆円、非金融純資産は244兆円。

岩本沙弓著「最後のバブルがやってくる、それでも日本が生き残る理由」集英社
  • 国債の95%を自国民が保有する日本において、デフォルトは有り得ない。国債を海外に頼 っているギリシャとはここが決定的に違う。
  • 日本は輸出大国ではない。依存度は10%程度。(総務省統計局)
  • 震災後の今日、円高はメリットの方が大きい。石油が安く手に入る。
  • 製造業の空洞化の危機が叫ばれているが、すでに空洞化している。
  • 円高と、グローバリゼーションによる国内空洞化は切り離して考えるべき。付加価値のない製造が国外に出て行くのは古今東西の常識。
  • アメリカの財政赤字が膨らむと、昔から30-50%のドル安(円高)になる。つまりアメリカは借金を棒引きにすべく意図的にドル安に誘導している。これは基軸通貨のドルを持っていることでなせる業。
  • 日本は世界最大の債権国であり、251兆円の対外純資産を持つ。(財務省、日本銀行)
  • 国債暴落をヘッジファンドが仕掛けることはない。国債額は700兆円。リーマンで資金余裕を失ったヘッジファンドが太刀打ちできる額ではない。
  • 万が一国債が暴落しても、金利がいまの0%から2-3%になる程度。国民には金利が上がってプラスだろう。一時的に円高になるが、それもまたバランスしていく。
  • 金融緩和しても民間にはまわらず、海外に出て行くだけで意味がない。企業が収益を上げても貯め込んでしまい、給与に回っていない。 
  • 2009年比で、2012年1月現在 ECB 1.2 => 2.0、FRB 0.7 => 2.7と大量に金融緩和しているが、日本は1.2 => 1.4。日本はそれ以前にバブル後遺症治療のために大量供給していた。
  • 今後の見通し。
    • 2012年9月以降 円安になる可能性が高い。 ただしそれは2016年頃まで。
    • 2012年-2014年の間は金融株が、2014年-2016年までは全体の株価が上がり、24,000円程度がターゲットとなる。 2016年がピークで、30,000円以上には上がらない。
    • 金は上昇を続ける。 2022年頃までは最高一オンス3,000ドルだろう。


読後感:
 いづれも売り出し中の若手評論家。円高に対する見方は大きく分かれ、また金融緩和に対する考え方も様々。 円高に関しては円安誘導して欲しいと思っていたのだが、岩本氏の見解は大変興味深かった。 「日本政府がドル買い介入するのは、暗にアメリカ政府の財務状況を助けるためにやっているのではないか、米国債を買うことを正当化しようとしているのではないか」という疑念を投げかけている。
 金融緩和するにしても、思惑通りに市中に回らせることが難しいという点は一致している。 個人的には、自民党政権末期に大量発行していて、それでもインフレにならないのだから、あまり効果は期待できないと考えている。
 三橋氏の本はデータが多く、非常に参考になった。 論調は、「何でも日本は凄い、心配要らない」というトーン。 経済というのは生き物で、国民の気分次第。 少し安心しただけで財布の紐が緩み、経済成長する。 もしかするとそれを狙ったのかも知れない。

 3者の意見が共通するのは国家財政を気にする必要はない、と言う点。自分でお金を刷って、自分で使って成り立っている自作農国家であり、かつ外に貸している土地がたくさんあるから問題ない、ということだろう。では、何で消費税を上げるのだろう、社会保障はどうなるのだろう、その辺りまで切り込んで欲しかった。 ちなみに、適当に選んで買った本である。 財務省側の立場で書かれた本も必ずあるはずで、おそらく「そうは言っても、財政不健全であることは確かで、今後の成長をあてにせずとも自立できる運営を目指すべき」という論調に違いない。