2013/03/16

継続する会社の企業統治システムとは?


 

 会社の目的は? ・・・利益を出すこと。 経済学の本に書いてある。
もう一つの目的は? ・・・できるだけ長く継続すること。 これも本に書いてあるのだが、実現するのは難しい。
 かつて私の学生時代、ソニーは戦後日本の象徴として「若い会社」として認識されていたが、そろそろ設立から70年を迎えようとしている。 シャープは昨年100年。 パナソニックもまもなく100年。 しかし一方で、いづれも経営が苦しく存亡の危機に瀕している(2013年3月現在)。 会社を長く続けることが如何に難しいかを痛感する。 

 世界で一番古い会社の一つとされているのはドイツに本拠を置くメルク。 約350年の歴史を持つ。 化学・薬品メーカーである。 1668年の創業なので日本では徳川家光の子、家綱の治世。 
非常に特殊なのは、その企業統治の仕方である。 

 まず、フランクフルト株式市場に上場しているにも関わらず、75%の株式はファミリーが所有している。ドイツはそういう特殊な上場基準を認めている。 
 次に、ファミリーが一種の持株組合的な組織になっていること。 350年も前の創業なので、現在は第10-12世代となっており、全部で200名余。いづれも家系図をたどればどこかでつながるという程度で、直接の血縁は少なくなっている。それぞれ教師、薬剤師、サラリーマンなど一般市民と同じ生活をしていて、ファミリーのトップは互選により選出される。
 さらに、メルクの株式はファミリー内でのみ譲渡が許され、基本的には子孫に受け継いでいく。
また経営と所有の分離が徹底されていて、所有者であるファミリーが直接日々の業務に口を挟むことはしない。 

 いま、多くの企業はその資金を株式市場からの直接金融に頼っている。銀行に頼っていた時代と比較すると圧倒的に資金調達が楽になる。アングロサクソン金融資本主義が日本にも浸透した結果である。 一方で、株主というより単なるマネーゲームをするファンドや、ワンクリック投資家の膨張により、非常に短期的な収益を求められるようになってきた。日本企業の本来の強さは、ソニー創業者の盛田さんが言っていたように「将来を見据えた経営」だったが、これがもろくも崩れ去ったのがこの20年間だった。

メルクのファミリーは、前出の通り、株式を子孫に残すことが責務となる。無論、配当が増えることは良いことであるが、それによって将来会社がなくなっては元も子もない。つまり健全な形で会社を長く続けることを宿命づけられている。それは、本来あるべき会社の目的、すなわち「収益と継続性」にかなっている。 決して同族経営が良いとか悪いとかではなく、私は、そういう長期保有の株主システムを現在の株式市場制度に加えることはできないかと思っている。 それが短期的経営に走らざるを得ない日本の企業を立ち直らせるための一つの有効な手段だと考えている。