2011/11/29

法人営業「力」を鍛える 今村英明氏著


 この法人営業力を鍛えるという本の帯に「BCG流ビジネスマーケティング」と書いてある。言わずと知れた、ボストンコンサルティングのことである。以前書評を書いた三枝匡氏はBCG Japanの草分けの方。先日読後感を書いた山口英彦氏もBCGに席を置かれていた。そのせいか底流を流れるメッセージやプロセスが似通っている。印象に残ったことをまとめて、私の言葉に置き換えながら整理してみる。

  1. なぜマーケティング視点が必要か
    • 効率の良い営業活動をするためには、自分の必勝パターンを持つ必要がある。 
    • それは、「どの製品を、どの顧客に、どう売り、どう競合を長期的に凌駕し、どう利益をあげるかの、首尾一貫した見方・考え方・行動の仕方」と定義される。
    • 様々な企業のデータを元に少々ショッキングな現実を紹介すると、
      • 営業経験年数と売り上げ成績に相関関係はない。 
      • 取引額の大きさと利益率には相関関係はない。
      • 顧客のビジネスポテンシャルと、その顧客への訪問頻度に相関関係はない。
      • 売上が大きければ値引率も大きい、という常識から外れたケースが多く存在する。
    • 認識すべきポイントは、常識的に考えて有るべき姿に、現実はなっていないこと。 かつ会社のマネジメント側もその現実を把握していないケースが多いこと。
    • 一方で、現実を矯正することで効率を大きく上げることが出来る、「宝の山」でもある。
  2. 市場を科学する
    • 3C (顧客、競合、自社)を有るがままに把握する。
    • 個々の分析、それぞれの関係を検討して筋が通った説明が出来るように整理する。
    • その整理が正しいかどうかを数値を当てはめて確認する。
    • 価値のあるビジネスかどうかを検討する手法
      • チャンスマップ : 顧客A,B,C..の総購入額を横軸、自社と競合先D,E,F..を縦軸にプロットして、まだどれだけ自社が取れていないシェア(ポテンシャル)があるかを見る。 <これはシェア・マップと呼んでいた・・松野尾>
        縦軸・横軸の項目を変えることで応用可能。 例えば業種X既存設備の購入時期。 それ以外の項目候補は、用途、機能、技術、素材、商品群・・・。
      • バリューチェーン: ひとつの業界の上流から下流までをマッピングしてどのブロックに魅力があるかを考える。 つまり原材料、部品、部材・・・。
      • 顧客セグメンテーション: また二次元マトリックスを使う。 ビジネス行動の特性、ニーズの洗練度や高度化、価格敏感度
      • 売上方程式: 因数分解=数式化することで、何が要因になって売上が上がるか理解する。 これによってどの要因をいじることが売り上げ増加への近道か分析できる。 例えば;
        • 売上=購買顧客数 X 顧客一人当たり購買単価
        • 購買顧客数=ターゲット人口X認知率X店頭接触率X購入率
        • 顧客一人当たり購買単価=年間購入回数X一回あたり購入点数X単価
      • ベンチマーキング: 様々なパターンがあるが、やはりマトリックスを利用するのが判りやすく感じる。 例えば比較したい項目(販売にいたるプロセスなどがお勧め)を一つの軸として、もう一つの軸に他社と比較して優れている、劣っているを点数化してプロットする。 折れ線グラフで競合A, B, Cと自社としてもいい。 ポイントは比較項目を何にするか。 やはり顧客視点で何が求められているかで項目選択するのが自然。
    • 市場の科学のコツ
      • 仮説を立てて、後でそれを検証する方が効率がいい。 演繹法的(Deductive)アプローチ。
      • 現場に出る。 顧客の話を聞く。 現場の人の話を聞く。
      • フォーカス。 一番重要なところ、つまり成功すれば効果が大きい分野に絞る。
      • 顧客の購買行動には合理性があると信じる。
      • データによる客観的判断。
      • 100%でなくてもいい。
  3. 標準化戦略とカストマイズ戦略
    • 標準化は効率が利益幅が大きくなる可能性が高く、カストマイズ戦略は顧客の忠誠度を高める。
    • 一方標準化は市場の飽和によって低価格化が進む恐れがある。したがって投資のリスクを見込まなければならない。
    • カストマイズ戦略は顧客リスクをコントロールする必要がある。 つまい顧客が伸びないと、自社のビジネスも伸びない宿命を負う。 どの顧客にカストマイズ戦略をとるかの選定が重要になる。
  4. 大切な顧客を見極める
    • 顧客の収益性を把握すること。
    • 収益性に基づき、セグメンテーションする。
      • 儲けや成長の源泉となる顧客
      • 広告塔、ショーケース的な位置づけの顧客
      • 捨てる顧客
      • 時間軸の視点を持ち、いづれ勝ち馬になる顧客をみつける
    • ディープ・カストマー・デリバリー
      • 自社の視点による評価軸と顧客、業界の評価軸の違いを見つけ出す。
      • 敗因分析で顧客の認識を見つける。 負けたときはチャンス。
      • ニーズ深堀マップの利用。 表面上のニーズをAとする。 でも真のニーズをXとする。 Xを達成できる他の手法オプションをB, C, D...とする。 それぞれの手法A, B, C, Dを並べてPros Cons比較を行い、最終的にどのオプションを取るかの評価を行う。
      • 常に顧客の経営課題を考えることが、この項のキーポイント。
    • DMU (Decision Making Unit = 意思決定主体)
      • 平たく言えばディシジョンメーカーのことだが、組織単位も指す。 転じて意思決定分析手法の意味がある。
      • DMUマップとは、顧客の購入決定プロセス(稟議プロセスのみならず、選定に関わる関係者それぞれを一プロセスとして分類する)を図示していく。
  5. 顧客への新しいアプローチスタイル
    • ミッション別営業スタッフ
      • 顧客に応じて多様な営業スタッフをそろえる。 例として、開発営業、標準品プロモーション営業、特約店担当営業、通販企画スタッフというように。
    • KAM (キーアカウントマネージャー)
    • チーミング
      • ソリューション営業(顧客のニーズを拾い出してコンサルティング的に総合提案をする営業体制)を行えるように、チーム内にそれぞれ専門のエキスパートを準備する。 ただし、専門性が高くなるため個々人への会社のサポートが不十分になる可能性が指摘され、これを解決するために専門性を共有化できる取り組み、例えばマニュアル化などが必要になる。
    • SFE (Sales Force Effectiveness)
      • Step 1 : 現状を診断して定量評価できる指標を作る。 現場でのヒアリング、営業同行して個々の営業担当の行動比較を行う。
      • Step 2 : 優れた営業担当の行動手順を雛形にマニュアル化する。
      • Step 3 : マニュアルをベースにトレーニングを実施する。
      • Step 4 : 管理職へのトレーニング、特にPDCA(plan-do-check-analysis)が回るようになるまで教育を継続する。 このStep 4がもっとも重要。
追記:
実は著者の今村先生には、この本を読んだ後に連絡を取らせていただいて、当社のアドバイザーとして何度かお越しいただいている。泊まり込みのワークショップにもご参加いただいた。実に人間としても器の広い、魅力のある方であることを付け加えさせていただく。(2020.4)

2011/11/20

「法人営業 利益の法則」 山口英彦氏著




マーケティングの全般を網羅したいい教科書はないかとアレコレ探している。 世にマーケティングや営業戦略の本は多いのだが、自説の理論説明に追われてしまうのか、素人が読むとかなり断片的に感じてしまう。 
そんななかで、失礼ながらベストセラーとは言えず、かなりニッチなのだが、うまくまとめている本を3冊見つけた。 いづれもビジネスコンサルタントの方々が書かれているのが特徴で、なるほど研究者が書いた本と比べると、理論的でありながら実践的な印象を受ける。 筋立ては違うが、伝えようとしている本質の部分は概ね重なっている。 それぞれの内容を確認のためにまとめておく。 

 著者の山口氏は東大からロンドン大学MBAに進み、東銀、BCGを経てコンサルティングファームを経営されている。 ご自身も営業経験があり、その中での失敗例・成功例を元に、初めての人にも判りやすい書き方を工夫している。 

論理的には「客をみつけ」「関係を深め」「利益を出す」という順序で、その3つのプロセスを継続できる仕組みづくりによって「勝率を上げる」のだが、本の構成としては敢えて「利益を出す」部分を頭に持ってきている。 「利益を出す」ことが目標なのだから、というメッセージであるとともに、本の「つかみ」でもあるのだろう。


①どうやって「利益」を上げられる営業が出来るか。
  • ケーススタディ:
    食品メーカーの元気のいい営業マンが顧客の要求に応えながら売り上げ実績を上げるが、あるとき実は利益が出ていないことを知り、悩みにはまる。
  • 説明:
    • 顧客の要求に応えるのにはさまざまな方法があるが、商品を扱っている以上、これが顧客の求めている仕様に変更してより顧客の要求に合致するのが理想的である。 顧客は喜ぶし、営業も顧客に感謝されるうえに、売り上げが上がる。 一見いいところ尽くめであるが、そこに落とし穴がある。 標準品でなく、特注品というのはそれだけ会社としての手間が掛かる。 場合によって材料費、製造コストも上がる。 特注品なので数もでないが、その割に高くは売れない。 一般的には赤字になっていることが多い。
      この状況から抜け出る方策としては4つ考えられる。
    • マス・カストマイズ。 レディーメイドのスーツがいい例。 顧客ニーズにミートしたカストマイズが出来れば付加価値が上がり、価格を上げられるチャンスが高くなる。 また製造方法にも工夫がいる。 いろいろな組み合わせが可能なモジュール化の導入はそのひとつ。 なるべくサプライチェーンの下流部分で変更しないといけない。 たとえば原料からひとつひとつ変えてしまうと、膨大な仕掛在庫が発生し、却ってコストを押し上げる。 
    • バンドリング。 ファミレスのハンバーグ・セットがいい例。 単品でも注文できるが、セットにするとお得感が出る。 実際の原価は良く知らないが、サラダやスープ、ご飯などはコストは殆ど掛からないだろう。 要するにカストマイズと標準品を抱き合わせてメニューに載せ、利益が取れる商品が一緒に売れていく仕掛け。
    • 将来的に儲けるためのカストマイズ。 ITシステムにはこういうケースが多い。 導入時はフルカストマイズだが、ご承知のとおりその後も間違いなくソフトの追加変更がある。
    • 知恵のなる木。 この顧客では儲からないが、そこで作ったカストマイズ製品を、標準化して別な顧客に販売する。 この場合、当該顧客が広告塔として業界内でも影響力を持っていることが望ましい。 またカストマイズ時から将来の標準化を見据えた企画・設計が必要。

②どうやって顧客を探し当てるか。

  • ケーススタディ:
    まだ実績の無い新規ターゲットである、病院向けのITシステム受注に失敗し、購買担当者に理由を聞くと、他社の上層部との付き合いの深さという答え。 ところが良く調べてみると、顧客の意思決定者とのコンタクトをしていなかったこと、さらにそのニーズをつかんでいなかったことが判る。
  • 説明:
    • 新規顧客の開拓はビジネスを維持するうえで重要。 一方で営業マン、そのマネージャーも既存の顧客に行きたがる。 そのほうが売り上げが上がるから。 
    • 法人顧客の場合、意思決定者が複数居る場合があることと、経済合理性を考慮して決定することがその特徴。 
    • 顧客から見ると既存サプライヤーを切り替えるリスクが存在し、そのリスクを補うほどのいい提案がないと難しい。
    • 経済合理性とは何か。 重要なのは、「顧客が購入する目的と、こちらが提案する解決策の合致」を見せること。 例えばテレビを作るための部品を求めている顧客に対して、自社の実績や規模を熱弁してもあまり効果はなく、「それよりこういうテレビを作られる予定と伺っているので、この部品が役に立ち、しかもコストが安い」と話すほうがいい。
    • 複数の意思決定者はそれぞれ視点が違う。 それゆえ、意思決定により多くの人物が介在することは極力避ける必要がある。 
    • 顧客社内のルールも聞き出す。 予算枠、稟議ルールと決裁権限者、決定タイミング等も当然必須情報。


③どうすれば顧客を逃がさないか。

  • ケーススタディ:
    転勤してきた若手営業に担当が替わったばかりの顧客。 顧客側の担当者もほぼ同じタイミングで替わった。 訪問頻度が下がり、また顧客からの新たな依頼にタイミングが合わず、応えることが出来なかった。 ある日突然、取引停止の連絡。 顧客からの重要なサインを見逃していた。
  • 説明:
    • 取引の継続はどうやって達成できるか。 判りやすい3つのパターン。
      • Product Innovation (圧倒的な商品力;Apple, Sony, BMW)
      • Operational Excellence (絶えず生産・販売の改善をする力;Toyota, Walmart)
      • Customer Intimacy (顧客との親密性;Ritz Carlton, IBM)
    • 新規顧客を獲得した際に確認すべきこと。 「なぜ当社を選んでいただきましたか。」



④どうやって勝率を上げるか。

  • ケーススタディ:
    銀行営業マン。 本社から営業プロセス管理の徹底が求められているが、結局ノルマ達成のために従来からのやり方をして成績を上げる。 一方プロセス通りに営業する若手は成績が上がらない。 ただ長期的に見た場合は・・
  • 説明:
    • 低成長のいまの時代、従来どおりの営業手法では問題が出てきている。 「営業手法の見える化」、つまりプロセス化によって以下の点について改善が期待できる。
      • 改善ポイントが判らない。
      • 変化への対応が遅れてしまう。
      • 人材育成が非効率になる。
      • 短期志向になりがち。
    • 営業活動を標準化する。 そのためには営業の活動を整理し、あるべき行動プロセスを設計する。
    • その上で営業マネージャーの仕事は、そのプロセスを部下に浸透させるべく日常的に指導すること。

以上