2023/08/14

物語思考 「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のキャリア設計術  古川健介著

物語思考

「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のキャリア設計術 

 この本は、自分のキャリアや人生に悩む人に向けて、物語の主人公のように自分を考える方法を提案する本です。著者は、起業家やエンジェル投資家として活躍するけんすう(古川健介)さんです。本書では、以下の5つのステップで物語思考を実践するように進めています。 

  • 自分を制限している頭の枷を取る
  • なりたいキャラクター像を設定する
  • そのキャラを実際に動かす
  • そのキャラが活きる環境を作る
  • そのキャラで「物語を転がす」

物語思考とは、自分の人生を物語として捉えて、自分がなりたいキャラクターになるために行動することです。物語思考をすることで、自分の「なりたい状態」や「なりたいキャラ」を明確にし、自分に合った環境やコミュニティに入り込み、自分の物語をおもしろくすることができます。物語思考は、「やりたいこと」を見つけるのではなく、「やってみたいこと」を試すことで、自分の可能性や適性を発見することにつながります。

 

本書は、物語思考の理論だけでなく、具体的なワークシートやテクニックも紹介しています。また、著者自身の経験や成功者の事例も豊富に取り上げています。本書は、人生やキャリアに迷っている人だけでなく、自分の人生をもっと楽しみたい人にもおすすめの一冊です。

どちらかというと若い人向けに良い本かも知れません。


STORY THINKING

This book offers a method of thinking about oneself like the protagonist of a story, targeting those who are struggling with their careers and lives. The author is Kensuu Furukawa, who is active as an entrepreneur and angel investor. In this book, he guides readers through the practice of narrative thinking using the following five steps:

 

Removing the mental constraints that limit oneself.

Setting the image of the desired character.

Bringing that character to life in reality.

Creating an environment where that character thrives.

Unfolding the story with that character.

Narrative thinking involves perceiving one's life as a story and taking actions to become the character one desires to be. Through narrative thinking, individuals can clarify their "desired state" and "desired character," immerse themselves in environments and communities that suit them, and make their own stories more intriguing. Instead of merely seeking out what they want to do, narrative thinking leads to exploring what they want to try, helping individuals discover their potential and aptitudes.

 

This book not only delves into the theory of narrative thinking but also introduces concrete worksheets and techniques. Moreover, it provides a wealth of the author's own experiences and successful case studies. Recommended not only for those who are uncertain about their lives and careers but also for those who want to enjoy their lives more. This book might be particularly beneficial for young readers.

失敗の本質〜日本軍の組織論的研究〜 野中郁次郎他

 

毎年、終戦の時期を迎えると、こういう本を読む。今年は日本で最も有名な経営学者である野中郁次郎氏を始めとする六名の共著で、「失敗の本質」〜日本軍の組織論的研究〜を読んだ。大東亜戦争の重要な戦局での日本軍の失敗を研究し、組織として何がいけなかったのかを社会科学的な視点で解き明かそうという試みである。これを読みながら思うのは、2000年から十年間ほど、私が働いていた日本を代表する家電メーカーで体験したことが、見事に当てはまるのである。そして、そのメーカーは2013年頃に倒産を覚悟するほどまでに業績を落ち込ませた。現在は回復して、市場から期待されているものの、このメーカーに限らず、多くの日本企業は多かれ少なかれ、この本に指摘されている課題点、改善するべき点を持っている。その意味で、日本の敗戦を振り返るということもさることながら、経営学的視点で、どう組織を強くし、組織学習するべきかを深く考えさせられる価値ある本である。この本は1984年に書かれた。まさに日本経済が最終的なピークを迎えようとしているときに書かれている。それでいながら、その後のスランプすら予測させるように、そして実際に2023年の企業を分析する上でも、色褪せない普遍的な論理を展開していることに驚かされる。
ビジネスマンであれば、手に取って、絶対に読んでおく書物だと信じる。

失敗の本質

〜日本軍の組織論的研究〜

野中郁次郎他

 

大東亜戦争における日本軍と米軍との戦闘から見えてくるものを、社会科学的見地から歴史を紐解き、分析し、検証をした一冊。現代の企業経営、組織運営にもそのまま通じる共通の課題が見えてくる。

1)    戦略のグランドデザインが日本軍には無く、米軍にはあった。

l  一例として、米軍の日本に対する最終ゴールは日本への侵攻と占領。一方、日本は、緒戦での敵の殲滅を目指し、その後をどうするかは考えていない。

2)    戦略立案が、米国は演繹的であり、日本は帰納的とも言えない方法をとった。

l  米国は戦略目的をまず設定して、個別の行動を微調整していった。日本は、まずは先に何かを始め、全体を俯瞰して戦略を見ることがなかった。

3)    戦略目的の曖昧で、最終的なゴールが何かが分からない

l  一例として、「ミッドウェー島を攻略し、ハワイ方面よりする我が本土に対する敵の機動作戦を封止するとともに、攻略時出現することのあるべき敵艦隊を撃滅するにあり」の様に、ミッドウェー島攻略を志向し、後段では米艦隊撃滅を目的としている。つまり二重の目的になっており、どちらが重要か、あるいはどちらが目的でどちらが手段かという因果関係も分からない。

4)    目的が共有されていない

l  一例として、レイテ島の米軍上陸阻止が目的と考える大本営と、米軍の艦隊を壊滅させるのが目的と考える師団。

5)    目的を共有するという努力が見られない

l  一例として、ノモンハンでのソ連に対する敗退に関して、攻撃を中止せよという大本営からの指示が曖昧、台湾へ沖縄第32軍の精鋭部隊を派遣し、沖縄防衛が手薄になることに対することに関する台北会議で議論がなされなかった

6)    コミュニケーションが不十分

l  ハイコンテクスト(行間を読んで分かって欲しい的)な日本独特の表現で言ったつもり、分かったつもり、しかし理解を共有していない。一例として、山本五十六連合艦隊長官の戦略感を周囲の将軍が十分に認識していない。

7)    同調圧力による理論的、科学的議論の封圧

l  一例としてインパール作戦において、各指揮官は無謀であることを理解しつつも、牟田口軍司令官の精神論の前に、誰も反論せず、盲従した

8)    失敗の分析をせず、同じ失敗を繰り返す

l  一例として日露戦争時に成功した軍艦戦略を唯一無比にし、時代と共に技術や戦術が変化していても固執し続けた。一方米軍は開戦直後に複数の空母を集団に認め日本軍に大敗した後で、修正し、一隻の空母と護衛艦船団を、10キロ以上離し、幾つもの攻撃船団を構成し、その後の攻勢にいかしている。

9)    失敗した場合の対応策(プランB)がない

l  戦術が上手くいかなかった場合は、そのままなす術がなく同じ失敗を繰り返し、損害を大きくしていく。

10) 自ら失敗した戦闘を止められない

l  失敗してもあくまで最初のプランにこだわり、絶望的な状況になっても撤退や中止の判断ができない。

11) 大本営と前線の認識のすれ違い

l  常に大本営と前線では考え方が異なり、そのギャップを埋め合わせるための努力がなされない

12) 補給路確保の考え方がない

l  後方支援、ロジスティックの考え方がない。例えば、食料、弾薬はどうするのかを十分に考えず、敵を叩いて、そこから奪うという考え方(インパール作戦などはその好例)

13) 常に自らが強く、相手は腰抜けという客観性を欠いた考え方をして失敗をする

l  全ての作戦に通じている共通の誤認。

14) 異常な楽観性

l  作戦は全て上手くいくと盲信する。あるいは信じようとする。それゆえ、反対意見が出ても、「腰抜け」的な考えとされるのを由とせず、反対でも発言できなかった。

15) 諜報活動・偵察活動の圧倒的不足と、それらがもたらした貴重な情報の軽視

l  米国と比較してレーダー技術、通信技術の遅れがあったとしても、偵察活動を殆どせず、稀に貴重な情報がもたらされても、過信のためか、無視され活用されなかった

16) 指揮命令系統の特殊性

l  軍隊である以上、上からの命令に基づき、下が動く。ところが陸軍だと、参謀同士の個人的ネットワーク、海軍では新ドイツ派などのネットワークが働き、下克上になることが珍しくなかった。

17) 軍隊の統合に関して、米国は統合参謀本部が置かれ、海軍・陸軍・航空力など全てが一体となっていたが、日本は海軍、陸軍とそれぞれが別々に行動し、思想も異なっており、最後まで統合的な軍隊組織にならなかった

l  海軍の仮想敵国はアメリカであり、陸軍の仮想敵国はロシア・ソ連だった

18) 失敗から学ばない日本軍

l  作戦が上手くいかず負けた場合、最悪は参謀、あるいは指揮官が腹を切らされるなど、失敗から学び、その知識を組織内に蓄積、伝播することがなかった。

19) 根性論の日本と、科学の米軍

l  精神力において日本は優れている、という根性論が強く蔓延し、これが、失敗を認めない、あるいは許さない風潮を作ると共に、威勢の良い意見に対して反論すると「腰抜け」とされることを恐れて議論にならず、また常に敵を見下し、偵察によってもたらされた情報を軽視、無視することにつながっていた。

20) 信賞必罰が公正衡平でない

l  一例として、辻参謀が数々の転戦において大本営、上司の命令を無視して多くの損失を与えたり、独断でフィリピンの米軍捕虜を処刑するなどの戦争犯罪を犯しながらも、その人間関係重視から名目上の左遷をされただけで、後に大本営参謀本部に戻っている
一方で、ノモンハンでの敗戦に関して、作戦を失敗した部下に自刃を迫って自殺させている

21) 人命尊重の意識が乏しく、人的資源の貴重さを本質的に理解していない

l  一例として、インパール作戦の実行に際して現地と司令本部とで、その危険性について議論があった際に、一師団程度の事だから現地に任せれば良いではないかという大本営の将軍の一言で決まるという、人的資源の軽視。

 

全体のまとめとして語られているのは、次のとおり。

Ø  日本軍は、ある意味で環境適応し過ぎてしまっていたのではないか。いずれも日露戦争における陸軍であれば白兵戦による勝利、海軍であれば日本海における艦隊決戦が圧倒的な成功体験として、その後の陸軍、海軍の戦略基盤(パラダイム)を規定し、組織も組織学習もその成功体験を追尾して、世界の軍事戦略や技術の流れから置いていきぼりになっていたと考えられる。

Ø  日本企業(1980年頃)は、欧米企業が演繹的な戦略をとるのに対して、帰納的、すなわちオペレーション重視である。これは刻々と状況が変化することに対応しやすく、その意味で今までの高度成長を容易にした面はある。また大きなイノベーションは起こしにくい一方で地道に継続的な改善により発展を継続できる。他方、戦後の経済発展を支えた創業者やビジネスマンは歳をとり、成功体験から抜け出せず、昔の日本軍に近付いているのではないか。


Every year when the time of the end of the war approaches, I read books like this. This year, I read "The Essence of Failure - A Organizational Study of the Japanese Military" authored by six individuals, including Inagoro Nonaka, the most famous management scholar in Japan. This book delves into the failures of the Japanese military in crucial battles during the Greater East Asia War, attempting to unravel what went wrong from an organizational perspective through the lens of social sciences. 

Reading this, I couldn't help but reflect on my experiences working at a prominent Japanese electronics manufacturer for about a decade from 2000. The insights align strikingly well with what I witnessed. This manufacturer's performance declined to the point of anticipating bankruptcy around 2013. While it has since recovered and is now expected in the market, not only this company but many Japanese enterprises possess the issues and areas for improvement pointed out in this book, to varying degrees. In that sense, this book is valuable not only for retrospection on Japan's defeat but also for prompting deep considerations on how to strengthen organizations and foster organizational learning from a management perspective. This book was written in 1984, precisely as the Japanese economy was reaching its final peak. However, it's astonishing how it unfolds timeless logic that even predicts subsequent slumps and, in analyzing companies in 2023, maintains its relevance.

 

If you're a businessperson, I believe it's an essential read that you should definitely have on your shelf.

 

The Essence of Failure

A Organizational Study of the Japanese Military -

Inagoro Nonaka and others

 

This volume unravels, analyzes, and examines the history of what can be seen from the battles between the Japanese and U.S. forces during the Greater East Asia War from a socio-scientific perspective. Common issues relevant to modern corporate management and organizational operations are evident throughout.

 

Ø  Japan lacked a grand strategic design, while the U.S. had one.

For instance, the ultimate goal of the U.S. towards Japan was invasion and occupation, while Japan focused on annihilating the enemy in the initial battles, without contemplating subsequent steps.

The U.S. employed deductive reasoning in strategic planning, whereas Japan used an inductive approach.

The U.S. first set strategic goals and then fine-tuned individual actions accordingly. Japan, on the other hand, started with actions and failed to view the overall strategy from a comprehensive perspective.

Ø  Ambiguous strategic objectives, lacking clarity on the final goal.

For example, aiming to conquer Midway Island and eliminate the enemy fleet that might appear during the operation, indicating a dual purpose without clear causal relationships.

Ø  Lack of shared objectives.

For example, the Supreme Command perceived preventing the U.S. landing on Leyte Island as the objective, while a division considered annihilating the U.S. fleet their goal.

Ø  Absence of efforts to share objectives.

For instance, unclear instructions from the Supreme Command to halt the attack in the Soviet Union during the defeat in Nomonhan, or the lack of discussion about dispatching elite forces of the 32nd Army from Okinawa to Taiwan at the Taipei Conference, leaving Okinawa's defense weak.

Ø  Insufficient communication.

Employing Japan's high-context communication style, messages were intended but not understood, leading to misunderstandings. For instance, Admiral Yamamoto's strategic sense was not adequately recognized by surrounding generals.

Suppression of theoretical and scientific debates due to conformity pressure.

In the Imphal operation, commanders refrained from dissenting against reckless decisions by General Mutaguchi, yielding to his spiritual rhetoric.

Ø  Failure to analyze failures, resulting in repeated mistakes.

For instance, Japan held on to successful naval strategies from the Russo-Japanese War as immutable, even as technology and tactics evolved over time. In contrast, the U.S. swiftly adjusted tactics after initial defeats to win with a single aircraft carrier.

Ø  Lack of contingency plans (Plan B) for failure.

When tactics didn't go well, there were no alternatives, leading to repeating the same mistakes and escalating losses.

Inability to halt failed battles.

Sticking to the initial plan even in dire situations, unable to make decisions for retreat or cancellation.

Ø  Discrepancy between the Supreme Command and frontline perceptions.

Constant disparities in thinking between the headquarters and frontline, without significant efforts to bridge the gap.

Ø  Neglect of supply line considerations.

Lack of rear support and logistics thinking. For instance, not fully considering provisions and ammunition, relying on capturing from the enemy (as seen in the Imphal operation).

Ø  Pervasive lack of objectivity, believing in one's own strength and underestimating the opponent.

A common misconception evident in all operations.

Ø  Excessive optimism.

Blindly believing that all operations would succeed, leading to disregard for opposing opinions.

Ø  Drastic shortage of intelligence and reconnaissance efforts, disregarding valuable information brought by these activities.

Despite lagging in radar and communication technology compared to the U.S., Japan rarely engaged in reconnaissance and, when valuable information was gathered, it was either overconfidently ignored or disregarded.

Ø  Unique command hierarchy.

While military operations are usually top-down, personal networks among staff officers in the army and networks like the New German School in the navy sometimes resulted in an upward overthrow.

Ø  Lack of military integration.

The U.S. had a Joint Chiefs of Staff, enabling integration between the Navy, Army, and Air Force, while Japan operated its Navy and Army separately, without a unified military organization.

Ø  Japan's failure to learn from mistakes.

After failed operations, there was no systematic accumulation and dissemination of knowledge within the organization, contrasting with instances of staff and commanders committing suicide for failures.

Ø  Japanese emphasis on spirit and U.S. emphasis on science.

The emphasis on spirit led to a culture where failure was not admitted or tolerated, stifling dissent against forceful opinions for fear of being labeled as weak and leading to the disregard of information brought by reconnaissance.

Ø  Inequitable rewards and punishments.

Instances of individuals like Tsuji ignoring orders resulting in significant losses or committing war crimes, yet receiving nominal demotions due to personal relationships, while those who failed in operations in Nomonhan were pressured to commit suicide.

Ø  Lack of respect for human life and a lack of understanding of the value of human resources.

Instances where decisions were made based on the sentiment that the dangers of the mission were insignificant because it was just a division, displaying disregard for human resources.

 

In summary, it's suggested that the Japanese military, in a way, may have over-adapted to its environment. Both the successes in close combat for the Army and decisive naval battles in the Japanese Sea for the Navy during the Russo-Japanese War created a strong paradigm that subsequently hindered strategic and organizational evolution. Additionally, Japanese companies around 1980 tended to adopt an inductive, operation-centric approach in contrast to the deductive strategies of Western companies. This allowed for swift adaptation to changing circumstances and sustained growth through continuous improvement, but also potentially restricted radical innovations. 

Moreover, the founders and businessmen who drove post-war economic development, while skilled in their own right, might have become trapped in their past successes, paralleling the tendencies of the historical Japanese military.