2020/11/25

なぜ、人は操られ支配されるのか (西田公昭著・さくら舎)

 マインドコントロールという言葉は1980年より前に生まれた方であればよく知っているだろうと思う。あのオウム真理教というカルト集団が地下鉄サリン事件をはじめ多くの犯罪を犯し、そこで駆使された人間の心理を操る手法として有名になったからである。事件当時三十代半ばだった私は事件の際にたまたま海外旅行をしていて、ニュースで知った。正直なところ日本に帰るのが怖かった。オウム真理教の本拠があった富士山麓に毒ガス防護服を着こみ、カナリアの入ったかごを持った特殊部隊が隊列を組んで移動している光景が、尋常ではなく衝撃的だった。


その後、マインドコントロールの翻訳本や、立花隆の臨死体験などを読み、なぜカルトというものが成立するのか、なぜ洗脳されるのかの仕組みをかじってみた。どうすれば人は現実を現実として受け入れられるのか知りたかったからである。

実は日本で本格的にマインドコントロールの研究をしている学者は少なく、西田氏は立正大学で社会心理学の教授として研究に携わり、国連の対テロ心理研究や、国内のカルト・特殊詐欺などの裁判などで心理判定をされている。オウムをはじめとした事件がどうしておきたかを証言をもとに検証されている。

なぜ今になって、こういうことを改めて勉強しようと思ったかというと、2020年のアメリカ大統領選である。トランプ氏が大統領として適任と思っている人は日本では少数派だが、アメリカでは熱狂的にそれを支持する一群がいる。またQアノンと呼ばれるSNS上の集団が、米国は悪魔と結託した民主党やエスタブリッシュメントに支配されていて、その支配を突き崩すために天から送り込まれたのがトランプだというメッセージを拡散させ、それを本気で信じている人が相当数いることに驚きを隠せなかったからである。改めて、どういう心理が働き、そんな現実離れしたことを信じられるのかを知りたくなった。その一つの解を与えてくれる本だった。

気づきとしては、まず洗脳とマインドコントロールは別だということ。洗脳は強制的に連行し、拷問などを通して人の信念を変えることができる。一方で、拘束された状況から逃れれば元に戻ることも多い。一方でマインドコントロールは強制力を伴わない。しかし、心理的に信じれば救われる、信じなければ取り返しがつかないことが起きると脅され、追い込まれていき、時間をかけながら人の心に働きかけ、信念を変えていく。むしろこの手法の方が抜け出すのが困難だそうである。オレオレ詐欺などの特殊詐欺も、ある意味でマインドコントロールの手法に分類される。

私達が気をつけたいのは、どんなに心の強い人でもマインドコントロールにははまり込む、ということである。また近年、何が正しいのか、間違っているのかが分かりにくくなっていることも大きく影響しているという。戦後日本の復興時は迷う必要はなかった。働けば収入が増える、そういう単純な解があった。いまは長い低迷期、周辺国に振り回される国際環境、将来の保障も安心とは言えない、そういう複雑系の中で、確信をもって生きている人は少なく、常に迷いがある。SNSも加わって世の中に情報があふれ、どれが正しいのかわからない。こういう時代背景の中で、ズバッと答えが出る、分かりやすい論理が出てくると、人はもともと弱い生き物なので、悩み・考えることをやめて、その答えや論理にすがりつく。それを逆手にとっているのが悪質なカルト宗教や詐欺グループということである。

あらためて思い出させられたのは、人生は何か、今後の日本、社会ははどうなるのか、そういう複雑で大きな問題にズバリの正解は無いということ。それを声高に叫ぶ人には注意した方が良いということである。社会不安は、人々の心理を救世主(独裁者)に向ける。いろいろな不安があるが、すべてこの人に任せれば大丈夫だと思いたがる。それが危険であり、我々が戦時中の軍国主義の台頭を防げなかった大きな理由でもある。

良書だと思う。

(追記)

安倍元首相暗殺で再度取り上げられている旧統一教会問題。この組織はカルトである。

宗教の自由と、カルトを一緒にして考えてはいけない。一部の「専門家・評論家」が言うような信教の自由を犯さない・・という議論とは別な問題で、入口はその宗教とは分からず、個人の選択をさせないように一方的に情報を入れていき、同時にお金が貴方を救うとマインドコントロールしていく。私の大学時代には非常に問題視されていた団体が、時の与党、しかも最大派閥にここまで入り込んでいたことに驚きを隠せない。オーム真理教も知らない若い世代には本当に注意をしてほしい。一人で立ち向かい論破しようと無謀なことをしては行けない。自分に悩みがある、家族に悩みがある、かつ経済的に比較的恵まれている人は狙われやすい。まずハッキリと断る、追いかけられるようであれば、弁護士など救済する信頼のおける団体に相談することが大事。(2022.8.23追記)