2016/11/30

会社変革力 ジョン・P・コッター

今回はアメリカの経営学者ジョン・コッターの会社変革力を紹介する。

内容概略
変革は何故失敗するか
危機感が頭で分かっていても、自分のこととして捕らえられない。
あるいは本能的に現状肯定し、そこから逃げられない。

Team全体が同じ問題意識を持たず、リーダー、あるいは一部の取り巻きたちだけで動かそうとする。危機感が共有されず、変革のための行動も同一方向を向かなくなる。

ビジョンの重要性が共有されていない。上記のTeam全体の問題意識と重なる部分があるが、絵に描いた餅状態になってしまう。ビジョンが非常に優れていて、かつシンプルである必要がある。

従業員にビジョンを周知徹底しない。同上。
とくにリーダー、上層部が言ったビジョンと違う行動を取っていると、Team全体がビジョンを忘れる。

障害を許容する。変革を阻害するものはTeam自身、あるいはリーダー自身に内在していることがある。Dead moose。(目の前にある腐ったシカ肉を気づかないふりをする)

短期的な成果をあげられない。または強調しない。変革には時間がかかる。一方で人間は数年にも亘る、報われるかどうか分からない地道な努力には耐えられない。(日本人は違うかもしれないが)

本当に達成していないのに、成功を宣言してしまう。待ちきれずに成功をだと言うことは、ビジョンの定義が不明確で、どこがゴールか分からないからであることが理由。
変革が行われても、ゆり戻し起きて、先祖返りしてしまう。定着させられない。

成功する条件
日本で言うとバブル以前においては、まだ今ほど変革が必要とされていなかった。頑張って働く、それによって普通の生活が豊かになっていった。そこでいまネットであるとかコンピューター化が進み、技術の発展スピードが速まり、自由貿易も加速してグローバル化が押し寄せている。好むと好まざるとに係わらず、時代が変革を求めていることに気づく必要がある。

プロセス
1. 危機意識を高める
2. 連帯チームを築く
3. ビジョンと戦略を生み出す
4. ビジョンを周知徹底する
5. 従業員の自発を促す
6. 短期的成果を実現する(マイルストーンを設ける)
7. 成果をバネにしてさらなる変革を推進する
8. 新たな方法を企業文化に定着させる
このプロセスの順序を間違えてはいけない。
変革プロジェクトには通常、より小さなサブプロジェクトがある。
  このサブプロジェクトも、このプロセスの順序を間違えないようにする必要がある。

マネジメントとリーダーシップの違い
1. マネジメント:
人材と技術を管理する複雑なシステムをつつがなく進行させるためのプロセス
2. リーダーシップ:
組織を誕生させ、その組織を、激しく変化する環境に適応させていくためのさまざまなプロセス
3. バランス :
マネジメント過剰になると、効率などを追い始めてしまい、大きな変革は出来なくなる。重要なのは、最初は一人のリーダーでも、そのリーダーの数を増殖させていくことが必要になる。ひとりのカリスマでは変革は成し遂げられない。過去のプロジェクトの資料からマネジメントとリーダーシップの言葉の数を数えてみると、そのバランスが分かる。リーダーシップの重要性を改めて強調。

プロセス (成功するための方法)
危機意識
連帯
ビジョンと戦略
周知徹底
自発促進
短期的成果の位置づけ
成果を変革に
新しい方法と企業文化

これからの企業像
非官僚型組織
少ない階層
社内相互以前関係を最小に保つ制度と規定
市場データと分析力
業績データの透明化
人材開発(マネジメント、リーダーへの訓練や人材増加)
外部に目を向ける
人材をエンパワーする
迅速な意思決定
透明性
リスクテイカーの許容

リーダーシップと継続的学習
生涯研鑽と学習
リーダーとしての自覚と自己研鑽


読後感想
内容的には「当たり前」のことが書かれており、驚きや新たな発見はなかった。
特に、これらのあるべき姿は戦前戦後に掛けて日本企業の数多くに見られた傾向だったと思う。作者も松下幸之助の名を挙げているように、1970-80年代に掛けての日本の高度成長に対して、アメリカは敗北感を通り過ぎ、日本の成功を分析し始めた。そこがアメリカという国の偉大なところでもあり、危機にある日本も見習うべきことだろう。

変革の必要性、失敗の理由、成功の条件とプロセス、その後のあるべき姿に分けて、よく整理できている。全て理解していること、特に日本人であれば分かっていることではあるが、それを整理して面前に突きつけられると、確かに論理的に頭の中で整理できていなかったという気づきもあり、良書だと思う。
一般的にアメリカの本、特にMBA系の本はだらだらと引用やら例えばなしが多くてくどい。数ページでまとめられることを一冊にしないと売れないのかと思うような本が多いが、訳者もその点を理解して平易に書いたものと推察する。

付け加えるとすると、企業の永続性において、サクセッサー(引き継ぐ次のジェネレーション)をどう作っていくべきか、選んでいくべきか、という大きな課題に対してまだ回答が曖昧であり、そこは研究して欲しかった。
 パナソニック、ソニー、ホンダなど名だたる企業が戦後に大きな業績を残し高度成長を引っ張ってきた。一方で、創業者(優れたリーダーであり、マネジメント)が不在となったあと、官僚化し、もともとのビジョンが失われていった感がある。どうすれば防げたのかは、いまだに課題として残っている。

 私の出身であるソニーの歴史博物館に、創業者の一人、盛田昭夫の肉声が残っていて、常に改革・革新の先頭に立っていた彼がマネジメント会同で発した言葉を聞いたことがある。曰く「改革という美名の下に、壊してはいけないものを壊すことは控えないといけない。」・・・何のことを言っているのか、残念ながらその先は現経営者に検閲されて消されたのか(冗談)、残っていない。私は、それは創業時の志、すなわちビジョンだったのではないかと思っている。
 創業者や、創業者が特別に目を掛けた後継者がさり、サラリーマンが経営者となったこれらの大企業は、倒産しないまでもかつての輝きを失っている。そこには何らかの共通点があったろう。今後マイクロソフト、アップルなどが同じことになっていく可能性が高い。

またこの本は、大企業の経営幹部、経営戦略スタッフを想定して書いているように思われるため、そのまま我々がやってしまって上手く行くこと行かないことがあるので注意が必要である。ハーバードの先生であるから、教え子が経営幹部になることを前提とするのは当然だろう。
 我々のように小さな部門の中では、当てはまること、当てはまらないことも若干ある。例えばレイヤーは少なくあるべきものの、将来のリーダーを育てるためにやむなくレイヤーを増やし、マネジメント・リーダーの経験をつませる必要があったこと(勿論一過性のものとして)。
 また、大企業の支社の一部門でしかない我々が、肥大化した本社の官僚組織とどう協調し、活用し、変化させていくかなどもこの本には書かれていないテーマである。

ただし、このような相違を理解しながら、チェックポイントとして抑えておくべきことは大事。「プロセス」と「これからの企業像」は強く意識することは有益だと思う。

以 上