マーケティングの全般を網羅したいい教科書はないかとアレコレ探している。 世にマーケティングや営業戦略の本は多いのだが、自説の理論説明に追われてしまうのか、素人が読むとかなり断片的に感じてしまう。
そんななかで、失礼ながらベストセラーとは言えず、かなりニッチなのだが、うまくまとめている本を3冊見つけた。 いづれもビジネスコンサルタントの方々が書かれているのが特徴で、なるほど研究者が書いた本と比べると、理論的でありながら実践的な印象を受ける。 筋立ては違うが、伝えようとしている本質の部分は概ね重なっている。 それぞれの内容を確認のためにまとめておく。
著者の山口氏は東大からロンドン大学MBAに進み、東銀、BCGを経てコンサルティングファームを経営されている。 ご自身も営業経験があり、その中での失敗例・成功例を元に、初めての人にも判りやすい書き方を工夫している。
論理的には「客をみつけ」「関係を深め」「利益を出す」という順序で、その3つのプロセスを継続できる仕組みづくりによって「勝率を上げる」のだが、本の構成としては敢えて「利益を出す」部分を頭に持ってきている。 「利益を出す」ことが目標なのだから、というメッセージであるとともに、本の「つかみ」でもあるのだろう。
①どうやって「利益」を上げられる営業が出来るか。
- ケーススタディ:
食品メーカーの元気のいい営業マンが顧客の要求に応えながら売り上げ実績を上げるが、あるとき実は利益が出ていないことを知り、悩みにはまる。 - 説明:
- 顧客の要求に応えるのにはさまざまな方法があるが、商品を扱っている以上、これが顧客の求めている仕様に変更してより顧客の要求に合致するのが理想的である。 顧客は喜ぶし、営業も顧客に感謝されるうえに、売り上げが上がる。 一見いいところ尽くめであるが、そこに落とし穴がある。 標準品でなく、特注品というのはそれだけ会社としての手間が掛かる。 場合によって材料費、製造コストも上がる。 特注品なので数もでないが、その割に高くは売れない。 一般的には赤字になっていることが多い。
この状況から抜け出る方策としては4つ考えられる。 - マス・カストマイズ。 レディーメイドのスーツがいい例。 顧客ニーズにミートしたカストマイズが出来れば付加価値が上がり、価格を上げられるチャンスが高くなる。 また製造方法にも工夫がいる。 いろいろな組み合わせが可能なモジュール化の導入はそのひとつ。 なるべくサプライチェーンの下流部分で変更しないといけない。 たとえば原料からひとつひとつ変えてしまうと、膨大な仕掛在庫が発生し、却ってコストを押し上げる。
- バンドリング。 ファミレスのハンバーグ・セットがいい例。 単品でも注文できるが、セットにするとお得感が出る。 実際の原価は良く知らないが、サラダやスープ、ご飯などはコストは殆ど掛からないだろう。 要するにカストマイズと標準品を抱き合わせてメニューに載せ、利益が取れる商品が一緒に売れていく仕掛け。
- 将来的に儲けるためのカストマイズ。 ITシステムにはこういうケースが多い。 導入時はフルカストマイズだが、ご承知のとおりその後も間違いなくソフトの追加変更がある。
- 知恵のなる木。 この顧客では儲からないが、そこで作ったカストマイズ製品を、標準化して別な顧客に販売する。 この場合、当該顧客が広告塔として業界内でも影響力を持っていることが望ましい。 またカストマイズ時から将来の標準化を見据えた企画・設計が必要。
②どうやって顧客を探し当てるか。
- ケーススタディ:
まだ実績の無い新規ターゲットである、病院向けのITシステム受注に失敗し、購買担当者に理由を聞くと、他社の上層部との付き合いの深さという答え。 ところが良く調べてみると、顧客の意思決定者とのコンタクトをしていなかったこと、さらにそのニーズをつかんでいなかったことが判る。 - 説明:
- 新規顧客の開拓はビジネスを維持するうえで重要。 一方で営業マン、そのマネージャーも既存の顧客に行きたがる。 そのほうが売り上げが上がるから。
- 法人顧客の場合、意思決定者が複数居る場合があることと、経済合理性を考慮して決定することがその特徴。
- 顧客から見ると既存サプライヤーを切り替えるリスクが存在し、そのリスクを補うほどのいい提案がないと難しい。
- 経済合理性とは何か。 重要なのは、「顧客が購入する目的と、こちらが提案する解決策の合致」を見せること。 例えばテレビを作るための部品を求めている顧客に対して、自社の実績や規模を熱弁してもあまり効果はなく、「それよりこういうテレビを作られる予定と伺っているので、この部品が役に立ち、しかもコストが安い」と話すほうがいい。
- 複数の意思決定者はそれぞれ視点が違う。 それゆえ、意思決定により多くの人物が介在することは極力避ける必要がある。
- 顧客社内のルールも聞き出す。 予算枠、稟議ルールと決裁権限者、決定タイミング等も当然必須情報。
③どうすれば顧客を逃がさないか。
- ケーススタディ:
転勤してきた若手営業に担当が替わったばかりの顧客。 顧客側の担当者もほぼ同じタイミングで替わった。 訪問頻度が下がり、また顧客からの新たな依頼にタイミングが合わず、応えることが出来なかった。 ある日突然、取引停止の連絡。 顧客からの重要なサインを見逃していた。 - 説明:
- 取引の継続はどうやって達成できるか。 判りやすい3つのパターン。
- Product Innovation (圧倒的な商品力;Apple, Sony, BMW)
- Operational Excellence (絶えず生産・販売の改善をする力;Toyota, Walmart)
- Customer Intimacy (顧客との親密性;Ritz Carlton, IBM)
- 新規顧客を獲得した際に確認すべきこと。 「なぜ当社を選んでいただきましたか。」
④どうやって勝率を上げるか。
- ケーススタディ:
銀行営業マン。 本社から営業プロセス管理の徹底が求められているが、結局ノルマ達成のために従来からのやり方をして成績を上げる。 一方プロセス通りに営業する若手は成績が上がらない。 ただ長期的に見た場合は・・ - 説明:
- 低成長のいまの時代、従来どおりの営業手法では問題が出てきている。 「営業手法の見える化」、つまりプロセス化によって以下の点について改善が期待できる。
- 改善ポイントが判らない。
- 変化への対応が遅れてしまう。
- 人材育成が非効率になる。
- 短期志向になりがち。
- 営業活動を標準化する。 そのためには営業の活動を整理し、あるべき行動プロセスを設計する。
- その上で営業マネージャーの仕事は、そのプロセスを部下に浸透させるべく日常的に指導すること。
以上