この法人営業力を鍛えるという本の帯に「BCG流ビジネスマーケティング」と書いてある。言わずと知れた、ボストンコンサルティングのことである。以前書評を書いた三枝匡氏はBCG Japanの草分けの方。先日読後感を書いた山口英彦氏もBCGに席を置かれていた。そのせいか底流を流れるメッセージやプロセスが似通っている。印象に残ったことをまとめて、私の言葉に置き換えながら整理してみる。
- なぜマーケティング視点が必要か
- 効率の良い営業活動をするためには、自分の必勝パターンを持つ必要がある。
- それは、「どの製品を、どの顧客に、どう売り、どう競合を長期的に凌駕し、どう利益をあげるかの、首尾一貫した見方・考え方・行動の仕方」と定義される。
- 様々な企業のデータを元に少々ショッキングな現実を紹介すると、
- 営業経験年数と売り上げ成績に相関関係はない。
- 取引額の大きさと利益率には相関関係はない。
- 顧客のビジネスポテンシャルと、その顧客への訪問頻度に相関関係はない。
- 売上が大きければ値引率も大きい、という常識から外れたケースが多く存在する。
- 認識すべきポイントは、常識的に考えて有るべき姿に、現実はなっていないこと。 かつ会社のマネジメント側もその現実を把握していないケースが多いこと。
- 一方で、現実を矯正することで効率を大きく上げることが出来る、「宝の山」でもある。
- 市場を科学する
- 3C (顧客、競合、自社)を有るがままに把握する。
- 個々の分析、それぞれの関係を検討して筋が通った説明が出来るように整理する。
- その整理が正しいかどうかを数値を当てはめて確認する。
- 価値のあるビジネスかどうかを検討する手法
- チャンスマップ : 顧客A,B,C..の総購入額を横軸、自社と競合先D,E,F..を縦軸にプロットして、まだどれだけ自社が取れていないシェア(ポテンシャル)があるかを見る。 <これはシェア・マップと呼んでいた・・松野尾>
縦軸・横軸の項目を変えることで応用可能。 例えば業種X既存設備の購入時期。 それ以外の項目候補は、用途、機能、技術、素材、商品群・・・。 - バリューチェーン: ひとつの業界の上流から下流までをマッピングしてどのブロックに魅力があるかを考える。 つまり原材料、部品、部材・・・。
- 顧客セグメンテーション: また二次元マトリックスを使う。 ビジネス行動の特性、ニーズの洗練度や高度化、価格敏感度
- 売上方程式: 因数分解=数式化することで、何が要因になって売上が上がるか理解する。 これによってどの要因をいじることが売り上げ増加への近道か分析できる。 例えば;
- 売上=購買顧客数 X 顧客一人当たり購買単価
- 購買顧客数=ターゲット人口X認知率X店頭接触率X購入率
- 顧客一人当たり購買単価=年間購入回数X一回あたり購入点数X単価
- ベンチマーキング: 様々なパターンがあるが、やはりマトリックスを利用するのが判りやすく感じる。 例えば比較したい項目(販売にいたるプロセスなどがお勧め)を一つの軸として、もう一つの軸に他社と比較して優れている、劣っているを点数化してプロットする。 折れ線グラフで競合A, B, Cと自社としてもいい。 ポイントは比較項目を何にするか。 やはり顧客視点で何が求められているかで項目選択するのが自然。
- 市場の科学のコツ
- 仮説を立てて、後でそれを検証する方が効率がいい。 演繹法的(Deductive)アプローチ。
- 現場に出る。 顧客の話を聞く。 現場の人の話を聞く。
- フォーカス。 一番重要なところ、つまり成功すれば効果が大きい分野に絞る。
- 顧客の購買行動には合理性があると信じる。
- データによる客観的判断。
- 100%でなくてもいい。
- 標準化戦略とカストマイズ戦略
- 標準化は効率が利益幅が大きくなる可能性が高く、カストマイズ戦略は顧客の忠誠度を高める。
- 一方標準化は市場の飽和によって低価格化が進む恐れがある。したがって投資のリスクを見込まなければならない。
- カストマイズ戦略は顧客リスクをコントロールする必要がある。 つまい顧客が伸びないと、自社のビジネスも伸びない宿命を負う。 どの顧客にカストマイズ戦略をとるかの選定が重要になる。
- 大切な顧客を見極める
- 顧客の収益性を把握すること。
- 収益性に基づき、セグメンテーションする。
- 儲けや成長の源泉となる顧客
- 広告塔、ショーケース的な位置づけの顧客
- 捨てる顧客
- 時間軸の視点を持ち、いづれ勝ち馬になる顧客をみつける
- ディープ・カストマー・デリバリー
- 自社の視点による評価軸と顧客、業界の評価軸の違いを見つけ出す。
- 敗因分析で顧客の認識を見つける。 負けたときはチャンス。
- ニーズ深堀マップの利用。 表面上のニーズをAとする。 でも真のニーズをXとする。 Xを達成できる他の手法オプションをB, C, D...とする。 それぞれの手法A, B, C, Dを並べてPros Cons比較を行い、最終的にどのオプションを取るかの評価を行う。
- 常に顧客の経営課題を考えることが、この項のキーポイント。
- DMU (Decision Making Unit = 意思決定主体)
- 平たく言えばディシジョンメーカーのことだが、組織単位も指す。 転じて意思決定分析手法の意味がある。
- DMUマップとは、顧客の購入決定プロセス(稟議プロセスのみならず、選定に関わる関係者それぞれを一プロセスとして分類する)を図示していく。
- 顧客への新しいアプローチスタイル
- ミッション別営業スタッフ
- 顧客に応じて多様な営業スタッフをそろえる。 例として、開発営業、標準品プロモーション営業、特約店担当営業、通販企画スタッフというように。
- KAM (キーアカウントマネージャー)
- チーミング
- ソリューション営業(顧客のニーズを拾い出してコンサルティング的に総合提案をする営業体制)を行えるように、チーム内にそれぞれ専門のエキスパートを準備する。 ただし、専門性が高くなるため個々人への会社のサポートが不十分になる可能性が指摘され、これを解決するために専門性を共有化できる取り組み、例えばマニュアル化などが必要になる。
- SFE (Sales Force Effectiveness)
- Step 1 : 現状を診断して定量評価できる指標を作る。 現場でのヒアリング、営業同行して個々の営業担当の行動比較を行う。
- Step 2 : 優れた営業担当の行動手順を雛形にマニュアル化する。
- Step 3 : マニュアルをベースにトレーニングを実施する。
- Step 4 : 管理職へのトレーニング、特にPDCA(plan-do-check-analysis)が回るようになるまで教育を継続する。 このStep 4がもっとも重要。
実は著者の今村先生には、この本を読んだ後に連絡を取らせていただいて、当社のアドバイザーとして何度かお越しいただいている。泊まり込みのワークショップにもご参加いただいた。実に人間としても器の広い、魅力のある方であることを付け加えさせていただく。(2020.4)