この三枝さんという方は相当に優秀な人で、三井化学からボストンコンサルティングに転職し、日本人として始めてアメリカ・ボストン本社に抜擢されて赴任した。 その後の米国留学生活の状況を読むに、決心したことはどんなリスクがあろうが徹底的にやりぬくというタイプの人で、だからこそ若いころに大きな仕事を任されたのだろう。 翻って超長期不況の只中の日本でいまの若い人たちはリスクを取るタイプが多いのか、それとも安全な株を買うタイプが多いのか。
さて、肝心な内容はだが意外に古典的で、基本中の基本である。 スポーツでも基本が大事と言うが、プロになるほどに基本が大切なのだろう。
- 市場の把握=プロダクトライフサイクル(PLC)
新しい事業に関わることになったときに、最初にやるべきことは、そのビジネスが、導入期・成長期・成熟期・衰退期のどこにあるのかを見定めること。
- 導入期・成長期初期: 参入が多い。 シェアも変わりやすい。 重要なのは製品の優位性。 価格差は、まだ製品の信頼感が確立していないので、効果は限定的。
- 成長期: どの企業も似たような商品を出せるようになる。 営業体制、アフターサービスなどの面展開の蓄積が重要。 成長期後半には、価格競争が起こる。 価格競争に勝つには販売量を稼いで価格対応力をつける必要がある。 これはまた資金量の戦いでもある。 脱落するメーカーも出てくる。
- 成熟期: 少数安定の競合関係になる。 これを複合的優位性と言う。 マーケットシェアはほぼ確定して、新しい優位性を出す余裕は無い。 逆に言えばトップ企業の勝ちパターンとなる。
- 市場の成長率と自社の売り上げ成長率を比較してみるといい。 このときに、グロスの成長率だけでなくて、自社製品や地区にセグメントして、比較してみると弱いところが良くわかる。
- 自身のポジションの把握=事業成長ルート(プロダクト・ポートフォリオ PPM)
- 縦に成長率(上が高い、下は低い)、横にマーケットシェア(右が弱い、左が強い)の表を作り、自分らの事業がどう動いたかをプロットする。 これはプロダクトではなく、事業そのものがPPM上のどこからどこに移ろうとしているかを描いて整理するもの。
- たとえばいま私が担当している事業だと、最初競合がほぼなく、成長もなかったので、Cash Cow。 そこから成長率がいきなり上がって、Star。 その後競合が出てきて、一度シェアが下がり(Problem children)、さらに成長率が下がり始めてDogになりかけんとしたところを何とかシェアを上げてCash cowに。 今後はさらに成長率が下がりCash Cowになり続けるべくシェアを追うべし・・・といったところだろうか。
- ただしこれはかなり異例なパターンで、通常のルートは右上のProblem childrenからスタートして、Star ⇒ Cash cowの栄光ルート、Dogへのどん尻、あるいは混戦ルートを辿る。
- ターゲットの選定=セグメンテーション
どうマーケットをセグメントするか。 つまりどう「絞る」か、すなわち「捨てる」かが企業戦略のコアになる。 ここが戦略の肝になるところで、うまくセグメントが出来れば勝ち戦だそうである。 - 手法としては二つあり、それは、①先に商品があるので、誰を顧客にするか、②先に顧客がもう決まっているので、何を売るか、である。
- いづれの場合も、シンプルなものが良く、ブレストで探していくのがいいとされる。 一例としては、縦に売り込みに成功した場合の当社のメリット、横に顧客側の製品に対する興味とニーズの強さを入れて、その中に顧客名を入れていくやり方がある。 つまり、供給側のメリットと需要側のメリットを 2 x 2のマトリックスで表して、ターゲットを決めていくという方法。
- 常識を使えば、お客も喜び、こちらも嬉しいというwin-winになるボックスが優先度No. 1なのは自明だろう。 このようにボックスごとに優先順位をつけていく。
- 肝心なのは優先順位をつけた以上、他の顧客は待ってもらうこと。 そうしないと絞った意味が無くなる。
- フォローが肝要。 セグメンテーションに基づくアクションが確実になされているかのモニターチェックを週単位で行うことで、確実な実行を期待できる。 なおかつ円滑なコミュニケーションが期待できる。 ここをしないとセグメンテーションしただけになり、効果が期待できない。
またこれらを実行するにおいて、①覚悟があるか、②緻密にやったか、③夜、平気で寝れるか、を自分に問う必要がある、としている。
読み終えて得るものが多い、いい本だったと思う。 理論は知っているものばかりなので難しくないが、実体験に基づいているせいか、具体的で判りやすい。 また単純に小説としても楽しめる。 若い人が読めば、「竜馬が行く」と同じような高揚した気分になって仕事に励みそうな本である。 惜しむらくはもう少し若いときに読みたかった一冊。