日本の大企業(特に国際的な上場企業)には愛想を尽かしたというのが本音だが、実際にはそこからいただく商売も多く、会社人である以上なかなか公には言えない。
その問題点のひとつは、会社は株主のものである、という単純でわかり易い論理の元で経営されていること。 株主と言っても最近はワンクリックで株を売買している短期株主、あるいは株主に大きな影響を与えるやり手ファンド・マネージャーがその実態である。 彼らの行動ロジックはなるべく短い期間で株の値上益を手にすることに尽きる。 企業の側からすると長期的な経営視点による投資、地道で社会的な貢献はよほどうまくくパブリシティしてメディアに載せることができ、その結果株価が上がることでもない限り、評価の対象外となる。 つまり、好むと好まざるとに関わらず、株式市場の論理の元に経営を続けざるを得なくなってきているのが、いまの大企業と言える。 これらの企業群と強いコントラストで比較できる中小企業を紹介しているのが本書である。
この本には、社員わずか50名、そのうち障害者が70%を占め、斜陽産業であるチョークを扱って50年以上もビジネスを続ける会社や、これまた大きな成長が見込めるとは思いにくい寒天を製造するメーカーが「会社は社員の幸せのためにある」という社是を掲げて50年近く増収・増益を続ける事例、島根の交通不便な地にありながら世界的評価を受ける義肢装具会社など、普通の会社とかなり違う多くの中小企業が数多く紹介されている。
これらの会社に一貫した共通点は、「会社は社員とその家族のものであり、仕入先・下請会社のものであり、顧客のものであり、地域のものである。」との経営信条。 そして「利益を継続的にあげる」ことである。
できるだけ長く商売を続けるのがそこに働く者の幸福であり、そのためには経営者は、関係するあらゆるステークホルダーのためになること目指すべきで、だからこそ商売も続く、という当たり前の論理である。 一方、それが判っていても、現実にはなかなか出来ることではないからこそ、この本で紹介される個々の企業に大きな感銘を受ける。 規模は追わずに、世のため人のために。 少々古めかしい考え方のように思えるが、実はいまの日立、パナソニック、トヨタ、ソニー、ホンダ、シャープなど、大きな会社の創業期を調べると、必ずと言っていいほど同じ思想を創業者が持っていた。 注目すべきことだと思う。