2009/02/03

ゲーム理論 : 戦略的思考とは何か?


 いまでこそアマゾンで「ゲーム理論」で検索すると1,000件以上の本が出てくるが、この本は1991年の刊行というからゲーム理論をビジネス向けに紹介した本としてはかなり初期だと思われる。当時役員のスタッフ部門に居たことから自分には不相応なこの題名の本を手に取った。数学的思考が不得手な私には難解この上ない本だったが、それでも知的好奇心を刺激された非常にいい本である。

 身近な例を多用してそれぞれにゲーム理論的な解説を試みるのだが、基本的な考えの説明として「囚人のジレンマ」と言う有名な事例から書き始める。





 囚人ABが居て、それぞれ裁判に掛けられるが相棒を裏切って告発すると自分の刑は軽くなり、相棒は極刑となる。双方が黙秘を決め込むと証拠が弱くなるので双方の刑は軽くなり、逆に双方ともに相手を裏切れば重罪になる。前提として囚人同士は連絡を取り合えないとすると、囚人たちはどういう行動を取るだろうか。その場合、通常自分自身の保身を最優先として考えると相棒を裏切るのが一番いい。ところが双方がその行動を取れば結局重罪になってしまう。 

私は大学時代のサミュエルソン経済学で習った「構造の誤謬」を思い出す。自分のことを考えて消費せずに貯金をする。世の中の人が全てそうすると消費が冷え込み、景気が悪くなる。それと同じパラドックスが生まれる。

ただ面白いのが、現実にはこのゲームを変えることが出来ること。まず囚人はあらゆる手を使って相棒と連絡を取るだろう。すると協調できるかも知れない。あるいは仮病を使って公判時期をずらそうとするかも知れない。そうすると相棒がどういう手を取るか判る。 つまり競争相手との利得をこの表の中で想定し、時間、場所、情報などのルールを変えることにより結果を変えられる、ということである。 つまり自分と相手との利得をどうすれば最大にすることが出来るか、を追求している。そして協調を有効に利用せず、自己の利益のみ追求すれば、破滅的な結果になる、という結論を導き出す。またゲームの「場」や「ルール」を変えることによって逆転することも教える。数学的に言えば係数を変えてしまうことで関数の解を変えてしまうということだろう。国と国の駆け引き、ビジネス上の駆け引きにも応用できる、と学者が考える所以である。 実際アメリカの大学ではこのゲーム理論を実践的に教え込んでおり、外交交渉や企業のM&Aなどに利用している。日本人の交渉術が真っ正直なことを考えると、ちょっと恐ろしい。
 

 この理論を普段の生活に役立てるというのはなかなか難しく、この本の続編でも筆者がタクシー運転手を相手にゲーム理論による挑戦を試みるが大失敗に終わるというエピソードはほほえましいのと同時に、理論を現実に応用することの難しさも示唆している。もっとも最近は「ゲーム理論トレーニング」などという本が実践問題を解きながら習得する仕組を提供している。まだ全部読み終わっていないが(というかかれこれ数年たな晒し)、より深く考えてみるのにいいと思われる。

 いろいろゲーム理論を読んだ中でいくつかのフレーズが記憶に残る。
■「ゲーム理論とは強いものが勝ち続けることを証明した理論だ。」これは数学的にその通りである。80:20理論(パレートの法則)や、ランチェスター戦略も突き詰めれば同じ結論を導き出す。このフレーズの著者は、これに気付くと救われない気持ちになる、というニュアンスを述べていた。庶民の私もそう思う部分が多いのだが、長い歴史の中では盛者必衰であるように、人間は必ずしも合理的な行動は取らないので、勝者と弱者は常に入れ替わっている。

■「一度目の裏切りは許し、二度目の裏切りには徹底的に反撃せよ。」これは実際のゲームを何度も繰り返す中で、最も利得の高い組み合わせを探す結果導き出された経験則である。その後数学的にも実証されていたと記憶する。このフレーズは結構好きで、人生則にも相通ずるものがある。同時にアメリカの軍事戦略もこれなのだろうと9.11以降のアフガン戦争、イラク戦争を見て思った。現実はもっと複雑な要因が絡んでおり、巧く行かなかったどころか、世界不況の伏線となったのは誰もが知るところだが。