2019/05/06

白熱教室の対話術 堀公俊著

堀先生は、私が日本最大手の家電メーカーに勤務していたときに、 ファシリテーション研修を受けた講師として長く存じ上げていた。先生はカメラメーカーM社の経営戦略のスタッフでいらして、私が勤務していた電機メーカーが同社からある事業を譲渡してもらったときに直接関与されていたようである。
以前、私のブログでも取り上げさせてもらったファシリテーション、あるいはワークショップなど、さまざまな技法について深い知識と実践的な経験をお持ちである。そこで学んだことを実践でも使わせていただき、いまの自分のキャリアに生かしてこれた。
そして、つい先日、当社にお招きして二回に亘って、社員向けにファシリテーション・トレーニングを行っていただいた。

前置きが長くなったが、今回取り上げる本「白熱教室の対話術」は既に絶版になっているそうなのだが、A社のサイトでみると在庫一冊になっていたのでゲットした。
マイケル・サンダルの名前、あるいは白熱教室(これはNHKがつけた造語だろう)については記憶されている方が多いと思う。

  • 生き残るために瀕死の少年を殺して食べることは許されるのか?
  • イチローやビルゲイツの年収は高すぎるか?
など、身近であり、その場に居合わせることがイメージしやすく、かつ大きなジレンマを抱えた課題を聴講者に投げかけます。それに皆が共鳴するように、自分ならどうすべきかを考え始め、議論をし、部分的にマイケル・サンダルがまとめながら、講義を進めていきく。
私はこの番組が好きで何度か見ていたのだが、この講義の進め方にファシリテーション手法を感じることが多々あった。そこで先日堀先生に「あれはファシリテーションではないですか?」と聞いてみるとまさにその通りで、実際に堀先生自身があの講義を解説した本を書いたと言われるので手に取ったのがこの本である。

私事ながら、早稲田大学ビジネススクールに呼ばれて講師をした際に、海外留学生、社会人生徒それぞれに対して私の経験したビジネスケースを元にワークショップ形式の講義をしたことがあるのだが、見よう見まねで白熱教室もどきをやってみると、これが受けた。

先生の解説を読むと、その理由が良くわかる。
全体として起承転結にストーリーが組まれて、聴衆を引き付けやすい構成になっていること。一方的な講義をインストラクターとすると、議論を促進し、意見を引き出し、結論に至るまでのサポートを行うのがファシリテーションである。マイケル・サンダルはこのファシリテーションを使いつつ、要所要所でインストラクターとなる。冒頭に出したような、身近でイメージしやすく、考えさせられるテーマを準備すると同時に、的外れな議論でもその意見を尊重し、実際にそれが正しい方向へ舵を切り戻すための大事な意見にしてしまう。参加意識を高めるため、発言者の名前を聞き、最後に拍手を求めるなど、大勢の聴衆を本人に意識されること無く上手にコントロールしている。

たゆまぬ努力と天性のお陰でもあろうが、人にものを教えるだけでなく、大きな議論をまとめる上でも非常に参考になる講義であるが、それが堀先生によって深く分析されて手法を判りやすく整理されている。
絶版ということで残念であるが、まだネット上で売っているところもあり、最悪は中古でも読んで見る価値がある一冊である。