2019/05/05

人工知能は人間を超えるか~ディープラーニングの先にあるもの~ 松尾豊著

東大の松尾教授は日本におけるAI研究の第一人者とされている。
しばらく前に教授の書かれたこの「人工知能は人間を超えるか~ディープラーニングの先にあるもの~」を読んだので覚えとして記しておく。
ちなみにこの本は2015年3月初版である。それから既に3年経っており(いまこれを書いているのは2019年5月である)、この間中国が国家統制、軍事利用の目的か、大変な資金と試験運用をしているので、状況は既に変わりつつあるかも知れない。

ここではまずはAIでいま大きな革新がお起きていること、そして人々の関心であるシンギュラリティ(AIは人の知能を超えて勝手に動き始めるか)は起こるのかについて簡単に松尾氏の考えを記す。

まず人工知能の定義。世の中にはAI搭載などと謳ったサービスや製品があふれ始めているが、人工知能を「人間のように考えるコンピューター」と定義した場合、いま巷で言われているAIは人工知能ではない。(少なくとも2015年時点では)
ゆえに、いまAI搭載と言っている製品は悪い言い方をすると学問的には「ウソ」。商業的には「アリ」なのかも知れないが、人間の知性のごく一部を真似て動くようにしたプログラムでしかない。

ではコンピューターで真の人工知能を持たせることは可能かどうか・・という問いに対してはYES。なぜなら人間の脳の働きはすべて電気回路に置き換えることができ、すべての私達の行動、思考、感情は脳内の神経細胞を伝わる電気信号から成り立っているからである。
では、だったらいますぐ人工知能を作れるのか・・に対してはNO。なぜなら人間の脳は実に深遠であり、いまだに脳の機能や動きは解明できていない。少しずつ判ることは出てきているが、殆どが判らないし、なぜ脳がそういう働きをするかが判っていない。例えば嬉しいときに、脳にはセロトニンという物質が分泌されるのは良く知られている。だが、なぜセロトニンが出るのかは判らない。

いまなぜAIが騒がれているかには、学会における二つの大きなブレークスルーがあったからに他ならない。一つはインターネットを資料してグーグルをはじめ多くの企業・国家がビッグデータを蓄えたことで、「機械学習」が急速に発展していること。
もう一つはディープラーニングといわれる「特徴表現学習」が発見され急激に拡大していること。

一方で世の中を騒がせているのは、チェス、囲碁、将棋などでコンピューターが人間に勝ったという、ある種、衝撃的な事件が起きたことから、コンピューターが人間を超えた、シンギュラリティが近いという誤解を生んでいることを指摘している。
コンピューターは生まれた時点で実は人間を超えている。電卓の例が判りやすいが、どんなに暗算に優れた天才でも電卓には敵わない。それは誰でも知っていることで驚くことではない。IBMのディープブルー(チェス王者に勝利)、ワトソン(クイズ番組で優勝)はすばらしい技術の成果と言えても、他にいろいろなことを思考し、創造的な行動をする人間を超えそうだとはとても思えない。

これからの進歩について。ディープラーニングはいま、写真などを読み込ませ、その特徴からそれが誰か、何かを推定するところまで進んでいる。(中国の街中においた監視カメラによって誰が歩いているかを特定しているのはこれ)
人工知能が発達すると人間と同じような概念、思考、自我や欲望を持つことはないと考えられる。何故なら、入力するセンサーが違うことが一つ。人間の目、鼻、耳、など五感は同じものを創れない限り、コンピュータに入力するデータそのものが違うということになる。ゆえにアウトプットも人間が考えているものと違ってくる。
もう一つは本能である。人間には生存本能があり、それをベースにして、快、不快を判断し、美しい、怖いなどの感情が表れる。それがコンピューターになった場合、本能を持つのは無理である。

人工知能が人間を超えて征服するというSF映画的なことが起こるかどうか。
答えはNO。少なくとも現時点では夢物語である。いまディープラーニングで起きていることは、「世界の特徴量をみつけ、特徴表現を学習する」ことであり、このこと自体はコンピューターの進化の中では大きなブレークスルーである。しかしこのことと、自分で意思を持ち、自分自身を設計しなおすなどということとは天と地ほどの差がある。
その理由は人間=知能+生命だから。知能は人間に近い、あるいは一部においては追い越すことがあっても、生命を作り出すことは人間自体、全く出来ない領域である。

最後におまけとして松尾教授が挙げている10-20年後にコンピューターに取って代わられる職業のベスト3と、残っている職業のベスト3を転記してこの稿を閉じる。なお本では25の職業を挙げている。

小、中、高校生の今後のキャリアプランの参考にされたい。

無くなっているかも知れない職業ベスト3
1. 電話販売員(テレホンマーケティング)
2. 不動産登記の審査・調査
3. 手縫いの仕立て屋

残っているであろう職業ベスト3
1. レクリエーション療法士
2. 整備・整理・修理の現場管理
3. 危機管理責任者

順位は低いが、例えば税理士のような特別な権利を持つ資格でも、単なる税務代行だけだと、なくなっているかも知れない職業にランクされている。こういう私も、多少簿記の知識があるとはいえ、クラウドサービスを使って確定申告をしている。私のような大した所得が無くてシンプルな申告の場合、率直に言うと税理士がパソコンで処理してくれるより早くて正確であろう。だから、税理士・公認会計士などは血の通った、コンピューターには出来ないサービスを提供しないと生き抜いていくのが難しい。逆に言えばそこにチャンスがあるのだろう。
蛇足だが、将来の自分の目指す道を模索している諸君に参考になれば。