(2021年1月寄稿)
新書版の薄さでありながら、MMTの主張を網羅し、かつ客観的データで検証しているとともに、日本のいまの経済状況にどう応用できるかまで踏み込んで解説している。私のように中途半端に経済学をかじった人間にとっても平易であると同時に、信頼性の高いデータを利用しているので納得感もある、お勧めの一冊。いくつかMMTの本を読ませてもらったが、ケルトン教授の「財政赤字の神話」を読んで概略を理解したうえで、この本で確認していくのが一番よく理解できると思う。- MMTの骨子は?
=完全雇用と物価の安定を目指す財政提言
=通貨は税金を払うための手段として発達してきた
=自国通貨を発行できる政府において、財政破綻は理論的にあり得ない
=金融緩和(現在の政府・日銀の政策)よりも財政出動(直接政府支出によって民間の消費意欲を刺激する)の方が効く
= 政府の赤字は民間の黒字
= 政府は無限に通貨を発行できる、ただし過度なインフレにならないよう調整が必要・・つまり財源論は意味のない議論。
= 財政支出において、その支出先が未来につながるものであれば良い。 - MMTは無税国家を目指すのか?
= 違う。MMTは貨幣価値を、税金を納めるための手段として定義している。それゆえ無税にしてしまうと、貨幣としての価値が国民に認められなくなるので、無税国家はあり得ない。 - 税金は何のためにあるのか?
= 納税のために通貨に対する需要を生む。
= 過度なインフレを起こさないための調整弁
= 富の再分配(累進課税所得税、固定資産税、相続税)
= 悪い行いを正す(タバコ税、酒税、環境税、関税)・・関税は国内産業/雇用の急激な衰退を緩和するため
= 税金は国庫を潤すためのものではない! - 課すべきではない税は?
= 社会保障税 (企業負担を押し上げ、雇用の抑制につながる)
= 消費税 (購買力を引き下げるので特に不況・デフレ時はだめ。逆進性も高い)
= 法人税 (雇用を海外に移す可能性が高まる。利息が経費になるので借り入れが増える) - MMTは社会主義、共産主義か?
= 違う。財政出動は、あくまで受益者の負担を求める(リタイヤした年金生活者は別)もので、労働意欲と労働機会を達成するための考え方。自由経済や貿易を否定していない。 - 本当に国家の赤字は民間の黒字なのか?
Aの支出は、Bの収入。そしてその支出と収入を足すとゼロになる。
同じ原理で政府の黒字は、民間の赤字になり、これを足すとゼロになる。
つまり政府は黒字で、さらに民間も黒字ということは原理的にあり得ない。 - つまり緊縮財政(政府が黒字を目指す政策)は、民間の赤字につながるということか?
Yes。日本の場合は1990年半ばからずっと緊縮財政モードになっており、それにより民間(企業・個人)の収益は悪化し、デフレ+不況が続いている。
逆に言えば、民間が黒字であり続けるためには、政府は赤字であり続ける必要がある。 - 国債の役割とは何か?
= 金利が低すぎて過剰投資及びインフレを誘発する場合に国債を発行し、通貨を市中から吸収して金利を上げ、インフレを抑制するための道具。
= 金利が高く、デフレ基調であれば逆に国債を購入し、市中に多くの通貨を流通させ、景気を促進する。 - 円建ての国債が海外にわたり、それが暴落したり、為替危機をもたらさないのか?
= 海外部門と民間部門で、国債の意味合いは一緒。
= 仮に何らかの要因で海外投資家が日本国債を大量に売り出すとすると、確かに国債価格は下がり、金利は上がり、かつ円安圧力が生まれる。
しかし、上がった金利分は国債を増発することで支払える。かつ金利上昇は、市中の国債を政府日銀が買い上げることで市場の国債を減らし、金利を下げられる。
また円安圧力は、日本は変動相場制採用国家なので、自動的に修正される。つまり円安で輸入は減り、輸出は増える貿易収支は悪化し、その分円への需要は増え、円の対外レートは適正水準に落ちつく。 - 20年以上前にあったいくつかの国債デフォルトはなぜ起きたのか。なぜ日本では起きないのか?
= ロシア、イギリス、イタリア、タイなどでかつて起きている。
これらの国は、当時、固定相場制を採用していた、あるいは変動相場でも当該国がその通貨の実力以上に為替操作をしていたこと。自国通貨の国債でも実質的に為替固定にして外貨による発行と同じことをしていた。それにより防衛のための外貨が必要となるが、外貨準備が足りなくなると防衛手段が枯渇してしまっていた。日本は変動相場制を採用し、また外貨と為替交換レートを固定した国債を発行していないので、同じことは起きない。 - 日本は結果としてこの20年間、ずっと赤字国債を発行してGDP比で一番大きな額の国債を発行している。なのになぜMMT理論で主張するようにデフレ脱却できないのか。
= 金融緩和で行っており、財政支出をしていないから。金融緩和は銀行にある国債を政府・日銀が購入するわけだが、民間銀行からすると資産にあった国債が現金(実際は当座預金)に変わっただけ。それだけだと企業や個人からするともっと借りて投資しようとはならず、行き場を失った当座預金は株式市場など別な運用先に回るだけとなる。
= 財政支出はこの20年間ずっと緊縮政策をとっており、増えていない。中国、米国と比べても、日本は伸び率はほぼゼロ。また財政支出は民間(企業、個人)の収入を直接増やすので、より大きな乗数効果(お金を使い、それを受け取った人がまた使うという繰り替えにによりお金がもっと回る)が期待できる。これを日本政府はやってこなかった。 - 財政支出が本当に効くというエビデンスはあるのか?
= ある。内閣府とOECDのデータによると、財政支出伸び率=経済成長率であるとわかる。日本は1997年から伸び率はゼロ。中国は14%、米国は4.5%。 - 経済成長率が高いから、財政支出の伸び率が上がったのではないか。因果関係が逆ではないか。
= 違う。政府がお金を出し、これが世の中を回り、納税で帰ってくるという貨幣論がMMTで、先にお金を出すことから始まっている。 - 日本は少子高齢化で、だからGDPが減っているのではないか。財政支出の問題ではないのではないか。
= 違う。ハンガリー、ラトビア、リトアニアなど、同じように人口が減っている国は多いがGDPの伸び率は高い。例えば台湾は出生率は低いものの成長率は2.5%。 - 財政出動をするとハイパーインフレになり、危険だ。
= 違う。MMT反対論をはる学者の一番多い反論はこのハイパーインフレ論だ。特に戦中を持ち出して物価が上がったことを例として持ち出す。戦時中高橋是清などが行った財政出動は実際に経済を好転させたデータが残っている。一方で軍部が軍事費に多くを回し、次第に国内で必須の物資がなくなり、それにより需要供給バランスを崩してハイパーインフレを起こした。ハイパーインフレの犯人は財政支出ではなく、いま心配するべきは過剰な軍事費の増加と、実際の戦争。
かつ、20年もの間、デフレで苦しんでいるときに、ハイパーインフレを心配するというのは建設的な議論だとは言えない。
以上、MMTを勉強していく中で自分自身で疑問に思ったことを中心にQ&A形式でこの本の紹介を試みた。MMT理論自体もまだ詰めが必要な部分が残っており、完璧なものにはなっていないことは筆者の島倉氏も書かれている。私自身、まだ理解を深める必要があると感じているが、データや、現在金融市場、経済状況を見渡す限り、MMTは納得できる解答を与えてくれる。実際私自身も過去にブログで書かせていた考え方がMMTによって見事に勘違いであったことを認めざるを得ないことが多い。最後にMMTの日本経済への処方箋として再度まとめて終わりたい。
- 金融政策(いわゆるリフレ派政策)に頼るのではなく、財政支出の拡大が必要である。いまのような予算削減、増税だと消費者の所得向上が達成できない。(実際、安倍政権下の7年でインフレ2%目標は達成できなかった)
税制支出は直接的に民間を黒字化し、乗数効果が高い。 - 今後は財政規律の基準はプライマリーバランス(税収と政府支出をバランスさせようとすること)ではなく、インフレ率(例えば2-3%)にし、いまの生活や未来に残る分野に財政支出を惜しみなくつぎ込むこと。
- コロナ増税はしない。これをすると不況に輪をかけて消費を抑制し、デフレ+大不況に向かう。