2022/08/27

正義を振りかざす「極端な人」の正体 山口真一著 光文社新書 / The identity of "extremists" who wield justice


 以前からネット上の書き込みというのは何と酷い言葉を使ったり、イジメの様なことを書き込むのだろうと不思議に思っていた。特に炎上というネット用語でよく知ることになる、常識では考えられないような発言や行為がテレビでも報道されるが、それがまた火に油を注ぐことになるのは何故なのか、どういう心理が働いてこれだけ大勢の人が悪意を持って書き込むのか、「けしからん」と思いながらも興味を持っていた。
 この本は、非常に読みやすく、かつ知りたいポイントを解説してくれて、ネットとの向き合い方を考えさせてくれた。

 まず極端な例から取り上げると、クレーマーである。ある女性が、店の商品に不備があることに関して、店員、店長に怒りつけ、土下座までさせる、さらにあろう事かこの一部始終を動画に撮っていて、Youtubeに投稿したという事件。仮に商品に問題があったとしても、明らかにやりすぎであり、かつ恫喝して尊厳を無視するような土下座を強要するというのは、店側よりもこの女性の方が法的に罪になる。なぜそれをわざわざネットに載せるのか。
 一言で言えば、本人はこれが正義と考えているからである。こういうクレーマーは実は昔からある一定数いる。但し非常に少数である。
 別なケースでは、或る女性ジャーナリストが、大手テレビ局の記者にレイプされるという事件があったが、この事件に関して、勇気をもって告発した女性ジャーナリストに対して、何を根拠にしてか分からないが酷い非難をする書き込みが数多くあった。
 
 これらの数多くの事例からネットによる中傷という事で裁判となり、IPを特定して原告の勝訴となったケースから極端な意見をSNSに書き込む人、あるいは動画をアップする人の姿がかなり見えるそうである。驚くことに、その共通点は、本人は正義は我にありと考えて行なっている、年齢的には中高年が多い、社会的には地位のある人、かつ所得も平均より高いことである。つまり、フツーに社会にいる人、という事になる。
 ネットに一度書き込まれると、それが全くのガセネタでも、拡散されている中で、何処かに残る。仮に書き込まれた本人に非があるとしても、そうやって永久にネットの中に名前が残り、住所や親兄弟を含めた実名、顔写真、経歴まで晒される。ここまでくるとリンチと言って良い。
こういう行きすぎた行為を抑制する一手として、ネットは匿名で書き込めるから酷い投稿が増えるので、全て実名制にするべきという意見もあるが、実際にそういう法律を作った韓国などの事例を見ると、多少被害が減る程度で、実は効果が少ないことが立証されている。なぜなら書き込む人は、受け取った情報を真実だと思い込み正義感を持って書き込み、拡散するからである。
 人は右から左までさまざまな意見を持つが、一般的にそれをグラフにすると左右対称の山型になる。一番数が大きい中庸の人たち、つまり大多数の人というのは、或る事象に対して感想を持っても、わざわざ書き込むことはしない。かつ、微妙な問題だと察知すると、あえて自分が標的になることを避ける心理が働き、よけい書き込み数は減る。一方で、両極端にいる人は、端に行けば行くほど、人数が減るが、執拗に書き込みを行なって攻撃をする。
書き込み数をグラフ化すると、山を逆さにした様な型になる。
悪質な書き込みの場合は、わざわざ一人で複数のアカウントを作って、一斉に攻撃の書き込みを行うためネット上ではこういう人たちが物凄い数いるようにかんじることになるが、実際には非常に少ない人数となる。
 ある女性ジャーナリストに攻撃を加え、裁判で負けた人は年齢は60歳を超えて、アカウントを100以上持ち、十分な資産を持っている人だったことが分かっている。

  •  我々一般の思い込みとしては、フツーの社会人であれば仕事もあり、忙しく、わざわざそんな大量の書き込みをすることはないだろうと考えているが、実はSNSをうまく使える人は毎日10分もあれば大量の書き込みを自動的に送る方法を理解していて、実際に行動に移してしまう。

 こう考えていくと、ネットの書き込み数と世論というのは実は一致しない。特に微妙な、意見が割れるようなテーマになるとなおさらである。さらに、先ほど紹介したように、一度炎上するとこれがテレビで紹介され、さらに大炎上となる。メディアが極端な書き込みを増やしているとも言える。

 どうすればこういう行為が減るのか。根絶できるのであれば何か方法があるのか。
近年被害者がプロバイダーに対して書き込みを行った人の特定を従来より容易にする法律が表れたし、AIを利用してプロバイダーのシステム上投稿しようとした時の言葉などから類推して、投稿する前にアラートを出すようにしているなど、或る程度の抑制効果は見込める。
ただ、最終的には自分を含めたそれぞれのネットを利用する上でのリテラシーを上げていくことが必要で、教育上も、コンプライアンス上も周知していくべきではないかと著者は提言している。例えば;
  • 情報にはもともと偏りがあるという認識を持つ
    • 新聞を読み比べると、全く同じ見方をすることはなく、立場が違えば見方も違うことがわかる。それが普通の姿であることを認識する
  • 自分の正義感の使い方に敏感になる
    • 報道やネット情報を目にして、けしからんと思うことがある。その際に、即座に行動に起こさず、一度自分を疑ってみる、一呼吸置いてみる、そこで冷静になった上で、行動を起こすべきなのかどうかを判断する
  • 自分を客観的にみる
    • これは許せんと思うことを知った際に、自分自身はそれを咎められるほど立派な生き方をしてきたか、若い頃に間違いを起こさなかったか、もう一度考えてみる
  • 他者の尊重
    • 顔が見えないからといって、その人の人生、背景、社会的な立場、全て理解している訳ではない。相手を尊重する、寛容になるという気持ちを持てるかどうか、考えてみる
 など、社会で生きる上でも本来そうあるべきという、いくつかのポイントを上げて、ネット社会をネガティブな暗い世界ではなく、未来志向の明るい世界に変えていければ、という趣旨で結ばれている。

 繰り返すが非常に読みやすく、好奇心と公徳心の双方を満たしてくれる。
良本である。

I had always wondered why online posts often contain such harsh language and bullying-like behavior. In particular, I often see on the news these "net slang" incidents that involve statements and actions that are beyond common sense, yet they continue to fuel the fire. I have always been curious as to what kind of psychology is at play that causes so many people to write with ill intent, even as I think to myself, "This is unacceptable."

This book is extremely easy to read and explains the points I wanted to know, making me think about how to deal with the internet.

To take an extreme example, there are the so-called "complainers." There was an incident where a woman became furious with store staff and the manager because of a defect in the store's product, making them kneel down in apology, which she recorded on video and posted on YouTube. Even if there was a problem with the product, what she did was clearly going too far and forcing them to kneel down in a way that ignored their dignity was actually illegal, making the woman more liable than the store. Why would she even bother posting it on the internet?

In short, it's because she believes that what she did was just. Such "complainers" have actually existed in small numbers for a long time. In another case, there was an incident where a female journalist was raped by a reporter from a major TV station. Many hurtful comments were posted in response to the female journalist's courageous decision to come forward and accuse her assailant. It is unclear what basis these comments were made on, but there were many harsh criticisms.

Many people who post extreme opinions on social media or upload videos are often identified through legal proceedings involving defamation. Surprisingly, these people are typically middle-aged or older individuals who are well off and have higher incomes than average, indicating that they are ordinary members of society.

Once something is posted on the internet, even if it is a complete fabrication, it remains somewhere in circulation. Even if the person who posted it is at fault, their name, address, real name, photo, and career are permanently exposed on the internet. This is tantamount to being lynched.

Some argue that anonymity is the cause of such excessive behavior online and that everything should be done under real names to curb this. However, the actual effectiveness of such laws, such as those enacted in Korea, has been shown to be minimal in reducing damage. This is because those who post information believe it to be true and have a sense of justice when posting it.