2009/01/19

コーチング研修 (Coaching)


09年1月13-14日に会社主催のコーチング研修に参加した。 社内では最もポピュラーな研修のひとつで、参加者は部下を持ってまだ間もない、比較的若い課長さんクラスが多かったようだ。 本当は私の世代がいまさら受講するのは主催者側の本意ではないかも知れないが、タダで勉強させてくれるならこんなありがたいことは無いと敢えて出席することにした。

実は似たような研修を1999年頃、イギリス赴任中に経験している。 そのときは、悪い表現をすると、要するに部下を「言いくるめる」テクニックに思えた。 一緒に参加したフランス人の若くて優秀な男が、「ガキじゃあるまいし、いくらナイスにアプローチされても、俺を言いくるめようとしていることなんて直ぐ判ってしまうよ。」と叫んでいたのを思い出す。 これが相当の勘違いだったことが理解できて良かった。


コーチングとは

英語のCoachとは馬車、あるいは路線バスをさすが、まさにこの意味と解釈すべし。 つまり人を乗っけるだけ。 タクシーに乗った人に、運転手が人生を諭したり、頼みごとをするだろうか。 どこに行きたいかは聞くだろうし、世間話くらいはするだろう。 Coachingというのはそれと同じ。 乗客がどこに行きたいか聞き出して、目的地に連れて行ってあげる、というのがコーチングである。
Teach、つまり教えるというのは、マネジメント手法の一つで、これと並列関係である。 それゆえイギリスで受けた研修は、先生が悪かったか、我々受講するほうが勘違いをしていたかのどちらかである。


★どんなときに使うか
部下の成熟度を4段階に分け、それによって使い分ける。
◎高い成熟度を持っていて完全に自立走行できる ⇒ 委任する
◎ほぼ自立走行できるし、課題の把握も出来る   ⇒ 支援する
◎自立走行できる力は持つが、経験不足       ⇒ コーチする
◎何をどうしていいか全く知らない           ⇒ 指示する
なお、人にはその仕事分野に応じて、得意不得意、経験があったり未経験だったりする。 同じ部下に対してもそのテーマによっては委任したり、コーチしたりと、指導方法は切り替える必要がある。

★Coachingの特性
Teachingがpushであるのに対して、Coachingはpull。 聞き出す、コンサルティングやカウンセリングテクニックに近いようだ。 ということは当然、時間を掛ける必要がある。 時間的効率を狙うとTeachingというか、単に指示を与えるのが良さそうだが、それで物事が起きていけばいいが、実際にはそうならない。 同じ人に対してもpushとpullを組み合わせつつ、じっくりと付き合っていくことで本物になっていく。

★テクニック① まとめることでスッキリさせる
Coachingの上手な人と話すと、話している側はいいたいことを全部話せたからスッキリする。 では何故人はなかなか言いたいことを全て伝えられずにストレスが溜まるのか。 私の場合は話しているうちに何を話しているか忘れてしまう、相手に遠慮があって本音を言えない等々。 何故上手く話せないか、その課題を聞き手はうまく消し去ってやる必要がある。 すなわち聞き手が何秒か置きに話しの内容をまとめてやること、それから聞き手がリラックスして話せるように威圧感を与えないようにしたり、優しい言葉を使ったり、自分との立場の違いを意識させないように近い関係を演出したりが考えられる。 特に何秒か置きに話をまとめてあげる、というのは重要で、この「まとめ」が上手いと話し手の情報の吐き出し方は加速されていく。 
話をしていて「言いたいことを全て言えた」と思ったときは、ひょっとすると相手の聞き方が上手だったのかも知れない。

★テクニック② GROW
5W1Hというのは良く聞くが、このGROWという言葉は初めてだった。 もっと早くしっていればと思う。
G ⇒ Goal (目的を明確にする)
R ⇒ Reality (現状の認識)
O ⇒ Option (解決案)
W ⇒ Will (実行計画)
コーチングをしているときに、どうしてもRに話が集中する。 
当たり前だ、何をどうしたのかをヒアリングしているのだから、現状認識したがるのが人間。 これはいいのだけれど、そのために根本的な課題である、「どうありたいの」と言うことを聞かずに先に言ってしまうことが多いそうだ。 「君はどうしたいの?」「つまりxxがxxすればいいって良いってことだね?」というのが大切。 それによってどのRを聞けばいいのかはっきりしてくる。
ちなみにOについては、なるべく多くのOを出すべきだそうで、それによって「拡がり」を持たせることになる。 私はWを良く忘れる。 とくにWhenを良く忘れるので注意したい。 最後の詰めが甘くなるよね。

★テクニック③ Whyを使え
あまりに基本的過ぎて、そもそも何故それが必要なのか誰も議論しないことが良くある。 その結果議論のための議論になってしまう。 これも先にあげた「拡がり」を持たせるためのテクニック。 ただしWHYは非常に強い言葉だそうだ。 或るプロジェクトのどう進めるか検討しているときに、「そもそも

このプロジェクトって必要なの?」という投げかけは、具体的な議論をしているときに水をぶっ掛けるようなことだし、特にその会議の上席者が言うと議論をゼロリセットしてしまい、下手をするとモチベーションを一気に下げる。 使いどころが難しいが、一つの方法は言葉使いを柔らかくすることがある。 「ちょっと馬鹿なこと聞くけど、このプロジェクトって、そもそも何を目的としているのだっけ・・?」というような表現によって余計な感情が入らなくする方法がある。 

★テクニック④ 沈黙を使って話させる
これは特に私には重要なこと。 沈黙を怖がるために、アレコレ余計な事を言ってしまう。 むしろ沈黙することで、逆に相手が待ちきれずに話し始めることを期待できる。 これは結構高等技術でいまの私には苦手な手法だが、これを巧く使っている人は強い。
なお、相手に話させるためのフレーズとして他にもいくつか使えそうなものがある。
例えば;
「いまの状態を自己採点すると・・・?」 
「君がその立場になると・・・?」

★テクニック⑤ リマインド
コーチングに限らないが、やはり始終テクニックを頭の中で反芻するのは大事。 完全に身につくのには時間が要るからね。 仮に身についても、しばらく使わなければ忘れるもの。 私の場合はOutlookの"To Do List"に入れて定期的に、「これ、覚えている」と出てくるようにする。 

★テクニック⑥ 誠実さ
下から目線という題にしようと思ったがやっぱり辞めておいた。 卑屈になってもいけないから。 ただ重要なのは相手が人間であり、人間と会話する以上は時間を使い、こちらも教えてもらい、何かの役になってもらえればいいという考えを常に持っていないと、最初から成功は望めない。 誠実さ、というのは格好付けかも知れないが、つまり丁寧に対応するということだろう。 人間忙しくなったり、自分の思い通りの成果が出ずにストレスが溜まると、つい周りに居る人間を機械か道具に思えてくる。 これが怖い。
常に誠実にあり続けるというのは、神業でもあるが、そこまでの域に達することが無理でも、常に誠実であらねばと自分に言い聞かせることは出来るかもしれない。
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★番外編
研修を受けていて成るほど、と思ったことがいくつかあるのでその覚えを書く。
①技術者が話していたのだが、従来小さな部品とは言え、その設計から何から全部任されていた人が、より大きい部品(完成品でもいいが)を任されたとする。 常識的に一人ではやりきれない仕事量になるので、チームの何人かに仕事を分散させ、自分はそれを指揮監督することになる。 そうすると人によってモチベーションが下がることが見られるそうだ。 特に職人気質の人がそうなるよう。 ということは文系にもこういう傾向の人が居るのだろう。 より大きな仕事、チームのマネジメントをする。 こういう環境になると誰でもモチベーションが上がるだろうと思い込んでいたが、改めて人のモチベーションは多様だと感じることになった。 つまりこのタイプの人は、ある仕事を仕上げる経過そのものを楽しんでいるのであって、その仕事が大きくなったから他の人に渡すというのは、自分の仕事を取り上げられたように感じるらしい。 そう言われると、自分にも何となく経験がある。 或る商品の企画をやり、その商品を世界中に展開することになって、いままで数名でやっていたのをいきなり数十名が入ってきて、自分の思い通りに出来なくなってしまうという経験。 ニュアンスとしては近くないだろうか。

②自分は指示型、コーチ型、支援型、委任型のどれに当てはまるか、というテストをやった。 私は4つの真ん中で、ちょっと支援・委任型に寄ったところにいた。 それはそれとして、指示型からは遠いようだ。 指示をするのが苦手タイプで、そこが弱みでもある。 何故そうかを考えているときに講師がそれは自分が指示されるのが嫌な人間だからです、とコメントした。 自分が嫌と思うことは人にしないのが普通、だから指示をしたくない。 腑に落ちた。

③コーチングとはちょっと外れる。 赴任時代から考えていたのだが、そもそも委任傾向が強い自分を考えると、指示することもやらないといけない。 でも指示をすることは嫌。 解決としては、上司である以上、巧く行っていない場合はそれをどう解決するか、仮説でもいいのでしっかり持っておくべきという当たり前の結論。 その内容を指示型ですぐに出してしまうか、コーチングするかは手法の問題。

以上