2010/08/09

ランチェスター販売戦略  田岡 信夫氏

 ビジネスの社会に入っていろいろな本を読んだが、営業・マーケティング戦略のバイブルというとこの本だろう。 大変懐かしい。 

これはイギリスのランチェスター氏が考案した軍事作戦理論である。
第一法則と第二法則がある。
まず第一法則は、一騎打ちの法則と言い、例えば5人の兵士と3人の兵士が戦うと3人づつ死に、大勢居た側が2人残るというもの。 5 - 3 = 2 である。
第二法則は様々な兵器を持って戦う状況を想定する。 この場合は戦闘力は兵力の2乗になるとされ、5名と3名で戦った場合、多数側が生き残るのは4名になる。 
5 X 5 - 3 X 3 = 25 - 9 = 16 = 4 X 4 
つまり数が多いほど、より圧倒的に戦闘力が強まるということである。 
統計からはじき出された数字でもあり、恐らくこれは正しいと思われる。 私は数学が苦手だが、ゲーム理論も同じことを言っていて、極端に解釈すると、「強いものが勝つ」という事であり、「強い側はその体重さや筋力の比率以上に圧倒的に強い」ということになる。 当たり前と言えば当たり前で、判官びいきの日本人には何となく面白くないのではないだろうか。

田岡氏がそういう発想を持っていたかどうかは知るすべもないが、こういう力の差が圧倒的に効いてくる「商売」という戦いの場で、どう勝ち残るかを体系立てたのがランチェスター販売戦略である。
超簡単にまとめるとこうなる。
  1. 強者の戦略: シェアが高いプレーヤーが勝ち残るためには、第2法則が適用される状況下で戦う。 具体的に言えば、対抗する相手と同じ性能の武器を持ち、同時に投入するべき人員も多く、かつ同じ戦場で戦うべし。 平たく言うと、競争先のやることと同じことをする。 ただし物量は多く掛ける。
  2. 弱者の戦略: シェアが低いプレーヤーが勝つためには第一法則が適用される状況を作り上げること。 つまりなるべく相手を分散させる、一点に絞って攻撃を仕掛ける。 もっと具体的に言うと、相手の戦っている商品、販路、販売地域などをセグメント化して、弱そうなところを狙って売り込む。
ランチェスター・・・という響きは何故か機関銃を思い起こさせる。 もともとが上記のように軍事科学から発達して、日本にも紹介された。 それを販売戦略に応用して有名になったのは筆者の田岡氏の功績らしい。 社会人10年目未満だったと思うが、営業活動を科学的に定義できるような画期的な理論はないか探していたときに出会ったのがこの本だった。 自分の頭でこれだと思える自分の形を作れず、ある意味悩んでいたこともあるだろう、そのときには稲妻のようにこれだと思えた。 いまでは、これがすべてではないと判っているが、同時に商売をしている人たちには経験的に判っていることの正しさを傍証してくれる有力な理論であることには変わりないと考えている。

ただこの理論には「古い」との批判も少なくない。 ここがまさにバイブル(聖書)と似ていて、当初の理論をビジネス的にはどう解釈するか、人によって意見が異なるのである。 もともとの戦闘機の空中戦における統計結果に基づいて公式化したのがランチェスター戦略理論なので、それを戦闘機のように機能が明確で、一機、二機と数えられるものと、販売戦略のように目に見えない武器を使い、しかも単純に数えられないものを相手にすること自体が、かなりチャレンジングといわざるを得ない。 結論としても、強いものが勝つ、弱いものが勝とうとするときは相手の弱点を突く、という至極当たり前のことをやりましょうと言っている訳で、孫子の兵法にもおそらく出ているであろうという内容である。 

とは言え私が好きなのは、この理論を販売戦略に取り入れようという地道で誠実な努力の跡があること、そしてこの理論を後ろ盾にに販売のイロハを誰でも判るテキストブックに置き換えたところだ。 かつての高度成長期のようにシェア第一主義の中で非常に影響があった戦略論であり、いまのように停滞している時期だからこそ改めてこういう「元気のいい」理論を勉強してみてはどうかと思う。