2009/12/05

駆けつけ前の一杯のお茶

 30年前の大学生時代、北京の大学に一ヶ月の語学研修に行った。 旅行目的では中国へのビザを簡単に取れなかった時代だった。 中国も外貨が稼げて都合が良かったのだろう。 大学生中心の30名程度のグループになったと思う。 その中に、山口から来た50歳位の男性がひとり混じっていて異質だった。 地元企業を率いるオーナー社長の息子さんらしかった。 見るからに健康そうだったが、毎日大学の食堂で食べていると調子が悪くなるものか、しばらく入院したかで見えなくなった。 終業式(?)のときに治って現れて詩吟を吟じてみなを驚かせた。 なるほどこういう年齢の人は詩吟をやるのかと妙に感心したものだった。 この人を含めて、宿舎の私の部屋に近い人たちで集まって、小さなテーブルに酒を並べ、ベッドをソファー代わりにして夜更けまでよく語り合った。 おそらくそのときにこの人から聞いた話をその後もずっと覚えている。
 地元の消防団に参加しているらしく、火事のときには駆り出されるそうである。 夜中に警鐘が鳴るのか、あるいは電話で呼び出されるのか、とにかくがばっと寝床から飛び起きるそうだ。 普通われわれが考えるのは、そのまま防災服でも着込んで慌てて飛び出していく姿だが、この人は出かける前にタバコを一服していくのだそうである。 「気を落ち着かせる」ことで、いい仕事ができ、かつ「自分の身も守れる」のだそうだ。 「タバコを吸わない人はお茶でいい。 一杯ゆっくり飲んで、そして・・」、すわ、鎌倉と駆け出すのだろう。 大事の前に自分を落ち着かせるための工夫。 タバコはとうの昔に辞めて、お茶もカフェインが駄目な私の場合は、ジュースか深呼吸だろうか。 そういう大事が起きたときに、この話を思い出せるかが心配ではあるが・・。