その際に大企業に頼っては駄目。特に国際企業には所詮その地方のためにどう頑張るかの視点がない。地方に工場を作っても、中核は本社の人員で、為替の問題で生産を海外にシフトする場合はその工場を手放すことを厭わない。やはり地元の中小企業をもっと元気にする必要がある。

海外と比べると、むしろ日本のように一極集中の国の方が異質といえる。どうすればいいのか。
まず、親会社や元請企業だけを当てにしない。国が何かしてくれる、という期待をしない。自分で何とかするという視点。ここがスターポイント。実は日本の中小企業には国際的に比較しても「売り」になる技術や経験がたくさんある。そこにまず自信を持つ必要がある。日本が経済的に強くなったのはトヨタ、ホンダ、ソニーのおかげではない。それを支えた広汎な下請け中小企業の努力がある。本来、海外の投資家が狙うべきは日本の国際企業ではなく、そのヒエラルヒーの下部に居る中小企業だろう。その意味で自分たちが実は宝の山だという自覚が必要。では自分の強みは何か、それを知る必要がある。 従来、元請の言われたとおりにやっていた会社だと、自分の強みが意外にわからない。それを見つけるためには思い切って販路を広げることが大切で、その競争の中でもまれ、自分の強みを発見していくことが出来る。その強みを支えるのはやはり「人」であることも忘れてはならない。
ここまでは十分予測できる。驚いたのは、首切りされていた60歳以上の工員を呼び戻した事だった。このメーカーの製品もコンピューター化されて、いわゆるアナログ的な年配の工員はコストカットのためにどんどんリストラされていった。 それでも経営は良くならず、結局中国企業に買収されてしまうわけだが、この中国人社長はそのリストラが失敗の原因と見抜いたようだ。他にもさまざまな改革を加え、同社たたちまち蘇った。
製品の品質はコンピューターだけで決まるわけではなくて、ボルトの締め具合、パーツのはめ方など、非常にアナログ的なノウハウの結集でもある。それは安いからと言って代わりに雇われた派遣社員が教えてくれる人もなしにゼロから編み出せるものではなく、何十年もその工場で先輩から受け継いで学ぶべきものだ。それを首切りされた年配の工員は持っていて、それを宝の山だと見て取った中国人社長が賢いわけである。
恵まれた人は、自分が恵まれていることに気づかない。私はこの中国人社長の能力に疑いを持つつもりはまったくなく、優れた人だと思うのだが、同時に中国人として自国の工場のレベルを良く知っていたことがが幸運だったのだと思っている。 自分たちが持っていない部分を日本のメーカーに見出した、それで日本メーカーの本当に優れたところが見えたのだと思う。優れているのに使い切っていなかったところも気づいたのだろう。
自分たちの強みは人にあること。ではどこが強いのかを知るには、まず比較すること。そのためには自ら自分たちが比較される別な市場に乗り出していく必要がある。