2013/06/22

社員の多い日本と少ないイギリス




 イギリス赴任中には年に一度程度日本に出張した。その際に思い出したように驚くのはオフィスで働く人の多さだった。日本の本社はメーカーであり、海外子会社のように販売に特化した「軽い」組織ではないので、人は多くならざるを得ない。しかしそこを割り引いても、イギリスの自分が働くオフィスと比較すると、人が多いと思わざるを得ない。
何故なら後年、日本の販売子会社に出向した際も、やはり人が多いと感じたからだ。

オフィス全景 イギリスで働いていた時は実に効率的だと感じた。それぞれの役割分担と責任がはっきりしている。だから調整機能が必要ないので管理部門が小さい。直接お金を稼ぐ、営業やそのサポート部門の人員比率が高い。人員は少ないにも関わらず、朝は9時前に出勤する人が多いが、退社は4時頃というひとも少なくない。効率がいいのである。

  営業部隊は自宅から車で顧客を回る人も多い。この人たちは顧客と価格交渉や販売数量を決め、関係を維持する役割。
本部には営業と連携して、見積や受発注、細かい確認を電話で顧客と行うサポート人員がいた。役割分担が明確だった。もともと「個」を大切にする文化があるので、責任分担を明確にしておかないと、チームとしてうまく動かないからだろうと考えている。

 それと比べると日本の場合は、ある種民主的というか、集団を大切にする。だから「調整」というものに労力をかける。よって管理部門が大きくなる。そうすると社員が増えるので、ますます調整が必要になる。

 いいこともある。イギリスだと、役割分担がオーバーラップしておらずきちんと整理されているため、どこの組織にも責任を定義されていない仕事が降ってくると店ざらしになる。日本だと、何やかや言いながらも、誰かがやってくれる。ただし、それは全社的に考えると全体最適にならない、余計なことをしているのかも知れない。

 単純にどちらがいいと言い難いが、2013年、これから一人当たりGDPを上げなければ経済規模を維持できない日本は、イギリスやヨーロッパの効率の良いところは学んだ方がいい。

2013/03/16

継続する会社の企業統治システムとは?


 

 会社の目的は? ・・・利益を出すこと。 経済学の本に書いてある。
もう一つの目的は? ・・・できるだけ長く継続すること。 これも本に書いてあるのだが、実現するのは難しい。
 かつて私の学生時代、ソニーは戦後日本の象徴として「若い会社」として認識されていたが、そろそろ設立から70年を迎えようとしている。 シャープは昨年100年。 パナソニックもまもなく100年。 しかし一方で、いづれも経営が苦しく存亡の危機に瀕している(2013年3月現在)。 会社を長く続けることが如何に難しいかを痛感する。 

 世界で一番古い会社の一つとされているのはドイツに本拠を置くメルク。 約350年の歴史を持つ。 化学・薬品メーカーである。 1668年の創業なので日本では徳川家光の子、家綱の治世。 
非常に特殊なのは、その企業統治の仕方である。 

 まず、フランクフルト株式市場に上場しているにも関わらず、75%の株式はファミリーが所有している。ドイツはそういう特殊な上場基準を認めている。 
 次に、ファミリーが一種の持株組合的な組織になっていること。 350年も前の創業なので、現在は第10-12世代となっており、全部で200名余。いづれも家系図をたどればどこかでつながるという程度で、直接の血縁は少なくなっている。それぞれ教師、薬剤師、サラリーマンなど一般市民と同じ生活をしていて、ファミリーのトップは互選により選出される。
 さらに、メルクの株式はファミリー内でのみ譲渡が許され、基本的には子孫に受け継いでいく。
また経営と所有の分離が徹底されていて、所有者であるファミリーが直接日々の業務に口を挟むことはしない。 

 いま、多くの企業はその資金を株式市場からの直接金融に頼っている。銀行に頼っていた時代と比較すると圧倒的に資金調達が楽になる。アングロサクソン金融資本主義が日本にも浸透した結果である。 一方で、株主というより単なるマネーゲームをするファンドや、ワンクリック投資家の膨張により、非常に短期的な収益を求められるようになってきた。日本企業の本来の強さは、ソニー創業者の盛田さんが言っていたように「将来を見据えた経営」だったが、これがもろくも崩れ去ったのがこの20年間だった。

メルクのファミリーは、前出の通り、株式を子孫に残すことが責務となる。無論、配当が増えることは良いことであるが、それによって将来会社がなくなっては元も子もない。つまり健全な形で会社を長く続けることを宿命づけられている。それは、本来あるべき会社の目的、すなわち「収益と継続性」にかなっている。 決して同族経営が良いとか悪いとかではなく、私は、そういう長期保有の株主システムを現在の株式市場制度に加えることはできないかと思っている。 それが短期的経営に走らざるを得ない日本の企業を立ち直らせるための一つの有効な手段だと考えている。