2020/02/03

鈴木敏文氏と宮内義彦氏

 ふとした機会で、お二人のお話を聴く機会を得た。
現代日本で存命中のカリスマ的な創業経営者というと、京セラ創業者の稲森和夫氏は有名である。若い世代だとソフトバンクの孫正義氏。
 
 セブンイレブンの日本における創業、及びイトーヨーカドーグループのトップに上り詰めた鈴木氏は負けずに有名な方。違ったタイプではあるが、日綿実業(現在の双日)の社内ベンチャーから、いまのオリックスを立ち上げて一流企業の仲間入りを果たした宮内氏もまた著名な方である。

 鈴木氏は2020年で87歳、宮内氏は84歳。お二人とも若いころからメディアに出ることが多く、その動向が注目されてきたので間接的に存じ上げているが、
80歳を過ぎてまだ活躍しているのには驚かされると共に、こちらも歳を取ったという意味で感慨深い。
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鈴木氏の発言から。
いま働き方改革とかで24時間営業を取りやめたりいろいろと取りざたされているが、商品さえ良いものを出していれば、それで利益も上がり、給料も上げられる。そうすれば24時間で3交代でも働きたいという人は来るのです。何故商品を強化しないのか、私にはさっぱり分からない。」
「自分はオーナー企業に入社した一社員。セブンイレブンを立ち上げる時に、親会社がお金を出さないのを知っていたので、アメリカのセブンイレブンとは違う方式を取ろうとした。それは直営ではなく、フランチャイズにしたこと。そうすれば、大きな資金を必要とせず、ノウハウを売れる、商品を売れる。いろいろな障害があっても知恵を絞れば、本気でやろうとすれば何とかなるのです。」
「自分はワンマンと言われることがあるようですが、商品には確かにこだわった。セブンイレブンで売る食品には全て私が自分で納得するもの以外は置かせなかった。明日発売予定というものを、忙しくて試食する時間がなく、前日になって食べて、こりゃ駄目だと思い、中止させたことがある。全部廃棄です。社員がそれは勿体ない、せめて最初のロットを売り切ってから販売中止にしてはどうかと言われたが、首を縦に振らなかった。それは一度まずいと思われてしまうと、それが販売に及ぼす影響は計り知れず、廃棄によって損失を被る数千万円などは気にすることはないと考えたから。」
「セブンプレミアムという商品を作らせた。美味しくて、品質が良くて、というもの。これも社員が反対した。普通は一流メーカーからOEMを受ける際は、少し品質を落とし、安く買い、安く売る、それが常識だと。誰がそんな常識を作ったのか。私は良いものを高く売りなさいと言いました。そして、スーパー、コンビニ、百貨店、全部で同じ値段で売りなさいと指示しました。これまた社員が反対する。商品の値段に応じて売る店は違ってくるのだと。これも誰がそう決めたのか。良いものを、好きなところで買える、全てお客様の目線でそれを決めるものであって、売り手の都合や思い込みで売るのは失礼だと。」
「いままで失敗したと思ったことはない。反対が多ければ多いほど、これは行けると思いました。人がやらないことをする、だから成功するのです。」
「いや、失敗してもすぐ忘れるので覚えていないだけなのかも知れないが。」
「自分はある意味素人だったのが良かったのでしょう。セブンイレブンの時は、人事部長をしていたのだけれど、誰も手を上げないものだから自分でやると言った。素人なんですよ。だから却ってよかったのでしょうな。」
「お客様目線で商品が良ければ必ず売れる。売れないのは商品が良くないからで、もっと良くする努力が足りないから。あるいはお客様目線で見ていないから。」
「お客様のために、という言葉は嫌いだね。押し付けた感じになる。お客様の立場で考える、それが本当ではないか。簡単なことです。自分自身がお客さんの一人なのだから。」
「私の場合、経営はトップダウン。」
「自分で発想して、提案できない人はだめですね。」
「人材育成は素質をトップが見抜けるかがポイント。そしてまずやらせてみないと本当のところは分からない。」

・・・意気軒昂とはこういう人のことを言うのだろう。鈴木氏は基本的には今で言えば商品企画型の経営者だと思った。世界的に有名な人に例えるとアップルのスティーブ・ジョブスがそれにあたる。商品に妥協を許さない。かつ、ありきたりの商品は出さず、世間の人が想像しなかった新しいアイデアを形にするという意味で共通項が多い。
 ご承知の通り鈴木氏は、伊藤家というオーナー一族が所有するイトーヨーカ堂に入り、オーナーを説得しながら会社を大きくしていった。その意味では実質的に創業者としての要素が強い。発言からしてもワンマンである。これだけ強烈な個性だと周りが恐れてなかなか忠言できないように思われるが、圧倒的な指導力と商品企画力をもって成功を収めた。
「なかなか分かってもらえなくても、あきらめずに、自分の正しさを信じてしつこく説得する、それしかない。」とトップとの付き合い方を語っている。
もっともセブンイレブン、イトーヨーカドー共に成長の曲がり角に来ているという意味では、鈴木氏の退いた後の同社のチャレンジは大きなものになる。

最後の一言が面白かった。セブンイレブンが立ち上がり順風漫歩の頃、西武百貨店グループの堤氏、いまは倒産したダイエーの中内氏、いづれも1980年代では第一級の経営者として知られていた二人からヘッドハンティングされたそうである。結局は誘いは断り、そのままイトーヨーカドーに在籍したが、鈴木氏は「もし転職していたらおそらく2か月でクビになっていたと思う。」と語った。自他ともに認めるワンマンで、方や堤氏、中内氏もワンマン。合う訳が無いという事だろう。




 オリックスを事実上創業した宮内氏は鈴木氏とはかなりタイプが違う、理論家肌の経営者である。もともとはいまの日双、かつてのニチメンという大手商社の社内ベンチャーからスタートしている。

「失敗は70%、成功率は30%」
「もともとはリース業でスタートしたのですが、ある程度まで来ると成長のネタがなくなってしまった。それで市場を広げる必要が出てきた。」
「新しい事業を始める際に、全然違う業種にダボハゼで入っているように見えるかもしれませんが、実は事業再生から入って、旅館・ホテル・水族館・レンタカーなどに参入していきました。勿論事業参入においては素人ながらもそろばんをはじき、こうすれば上手く行くという想定はします。」
「それでもやはり100%成功することはあり得ません。担当者にどうだね、上手く行っているかと聞くと、いまはなかなか難しい状況ですが、あと一年やらせてもらえれば何とかできます・・、そんな風に答えます。これはもうだめだな、と思うとスパッと辞めさせます。自分から辞めると言う人はまずいません。辞めさせるのも経営者の務めです。」
「事業再生が上手く行くと、素人が半分素人になって、さらにノウハウをためるのですね、それで、そのノウハウを生かして事業を今度は拡張させていく、それがいまのオリックスです。」

「自分の経験からすると、70歳までは間違いなく働ける。ただ70歳の人が元気でバリバリやっていると、50歳代が活性化しない。ここが難しいのでなかなか定年延長に踏み切れない。」「女性はどんどん活用しないといけないと考えている。やはり真面目で出来のいい人が多い。」
「いまの世の中の変化は自由資本主義から国家独占資本主義(中国)とグローバル独占(GAFA)、それから格差の拡大と地球環境の大きな変化。」
「これからの時代はコンプライアンスもあるし、社会的な貢献も必要だし、デジタル化するなど、複雑系の中での経営となる。経営がアートになるような時代だ。いま経営者でなくて良かった。(笑)」

「人材育成・・・人を育成するって、本当にできるだろうかと思います。自分で育ってしまうのではないか。もう一つはこの人なら優秀で知識も経験も豊富だから経営者に向いていると思っても、実際の経営者には途方もないプレッシャーが掛かり、こいつは大丈夫と思っても、ガクッと駄目になってしまうことがある。やはりやらせてみないと分からない、というのが正直なところです。」
「失敗した人間をそのまま使わないのは勿体ない。失敗という良い経験を次の糧にさせるのです。いまの当社の経営陣で失敗していない人はいないのではないかな。」
「いろいろな事業に手を出したが、自分は飽きっぽい性格です。それが却ってよい時もある。特にこれからの経営者は飽きっぽい方が良いかもしれません。」
「労働生産性を上げるのは、商品力とロボット化、この二つだと思う。」

「経営はトップダウン、ボトムアップとそれぞれのケースがある。ちゃんと経営幹部会議で最後は決めるのだが、声の大きいことで決めるのでなく、良い意見も取り入れて微調整をして決める。そういう意味では最初からトップダウンではあるのだけれど手順を踏んだということですかね。」
「会社を説得するには、正しいと持ってもなかなか通らない。会社のためになると思ったら、とにかく言い続ける。これがだめなら会社を辞めるくらいの覚悟を持つ。」
「長く仕事をしたいなら、睡眠をよくする。そのためには運動するとよく寝れる。酒も適量。悶々としながら寝れない夜を過ごす、というのが一番体に悪い。」

 鈴木氏と比較すると、話し方も理知的で、優秀な管理部門出身の経営者というイメージである。ただ、これだけの会社を作っただけあって肝は据わっているのは当然で、故に最後の発言にあったように、想像できないプレッシャーにも負けなかったという自分に対する静かな自負があるものと推察される。

 お二人に共通するのは、諦めない強い信念と体力、そんな印象を受けた。下で働くのは大変だろう。しかし言葉の端々から学べるものが溢れ出る方達だった。

2019/10/06

会社成長のカギは外国人材の活用だ! 双葉社

グローバル人材キャリア支援協会編による一冊。
2019年現在から20年先を見通すと日本の労働人口は圧倒的に足りなくなる。
これは厚労省や総務省などの統計上、必ず起こることであり、会社や団体に限らず、日本に住む全ての人はこのことを認識して、いまから準備しなければならない。
社会保険は足りなくなり、社会を回すための人材が圧倒的に不足する。従来当たり前と言われていたような電車に乗り、通勤する、就学する、スーパーで買い物をする、病院で診察を受ける・・・そんな普通の生活ができなくなる可能性が出てくる。
王道の解決方法は、日本人一人一人の労働効率を向上させる事である。ただし、この20から30年で、一人当たりのGDP(つまり収入、あるいは生産効率)を倍にしなければ、いまの社会基盤を維持することは難しい。無理とは言わないが、かなりチャレンジングだと言わざるを得ない。これは日本の歴史を遡っても、最大の国難のひとつと言えよう。
解決方法のひとつとして有力なのは、移民の受け入れ。すでに国は「移民」という言葉は使っていないものの、「高度人材の受け入れ」という表現で、日本に海外から労働力を補充しようとしている。この本はこの解決方法をよりフォーカスして書かれている。

メディアによると、海外で就職したい国のラインキングで30位程度を低迷しているのが日本である。その点では「外国人材を受け入れてあげる」では無くて「外国人材を求めに行く」という時代にすでに入っている。そういう外部環境の変化の中で、どう外国人材を自分たちの社会に受け入れ、夢を持ってもらい、活躍してもらえるか、というwin-winの状況に持っていかないと行けないのが、いまの日本の課題である。

外国人材受入の基本3ポイント
  1. 文化の違いを認める、楽しむ
  2. フィードバックを与える、受ける
  3. 将来を見せる、ビジョンを描かせる
が挙げられている。幸運なことに私はいままで、約30カ国の人々と一緒に働いてきた。彼らのマネジメントの下で働くこともあったし、マネジメントしたことも、もちろん同僚として、チームとして働くことも多くあった。そこで重要なのは気づきは文化の違いによる誤解を乗り越えて、認め合い、違いを楽しむことがいかに大切かということだった。

唐突だが、日本語というのは非常に曖昧な言語である。阿吽の呼吸が通じる。忖度が通じる。「まあ、うまくやってくれよ」という何を求めているのかわからない上司の指示が、指示として伝わる。これは日本人の間でしか通じない。外国人はそれがアジア人であろうと、欧米人であろうと、明確に、細かく、具体的に説明しないと分からない。

さらに、外国人を使い捨ての肉体労働要員として扱う、短期の補充要員として扱うこともとんでもない時代錯誤と言わざるを得ない。特に日本人はアジア人に対して下に見て、一方で西欧人に対しては劣等感をもつ傾向がある。これも考え方を全く改めた方が良い。
この数十年でアジア諸国の教育水準は非常に高くなり、私が同僚として働くアジア系の諸外国人の業務能力、言語能力、調整能力は素晴らしいもので、言語が壁になりやすい日本人でも互角に仕事をできる方はかなり少ないと言わざるを得ない。

私がたまに講師をする早稲田大学ビジネススクールには留学クラスがある。アジアを中心に欧米からの留学生も多いのだが、優秀である。また日本でそのまま就職したいという人も少なくない。ところが実際はその能力を評価されないのか、あるいは外国人アレルギーがあるのか、受け入れ準備がないのか、就職できずに日本を去るケースが多い。仮に就職しても、日本的な徒弟制度的な会社運営に魅力を感じずに辞めて行くケースがあとを絶たない。外国人も日本人も同じで、その会社での仕事に魅力を感じ、チームの中で働くことに楽しさを感じ、自分のキャリアプランを描けるビジョンを会社の中に見出さない限り長くは働いてもらえない。
この本ではこういうテーマを扱い、具体的に何を準備すれば良いかを丁寧に書いている。加えて具体的な事例を説明している。直接こういう外国人材と深く関わってきたからこそ書ける実話が数多く紹介されている。

これを書いている2019の秋に行われているラグビーW杯。日本チームは31名の代表中、15名は外国出身者である。帰化しているプレーヤーが多いとはいえ、一見すると世界選抜チームにも見える。日本人だけで、おなじ活躍ができたろうかと考えると、おそらく難しいだろうと思われる。文化や考え方の違いを受け入れる勇気、それこそが日本という国を再度強くすると信じている。